【25年推し活研究】「お金」ではなく「時間の消費」が"沼"の深さを左右する──「沼り度」から紐解く推し活の新事実

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生活者データ
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【25年推し活研究】「お金」ではなく「時間の消費」が"沼"の深さを左右する──「沼り度」から紐解く推し活の新事実
この記事はこんな方にオススメ!
  • 「推し活」について興味がある方
  • 「推し活」の最新の実態について知りたい方

3人に1人は<推し>がいる時代に!とどまることを知らない「推し活」ブーム──広がる言葉、深まる沼

昨今 "推しがいる"ということは、生活者にとって、もはや当たり前のことになりました。ビデオリサーチの生活者に関するシンクタンク・ひと研究所では、2024年から「推し活」の実態やメカニズムにてついて調査・研究を行っています。2025年度の調査では15~69才全体で推しがいる人は38.9%。実に3人に1人は"推しがいる"ことが分かっています。

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ビデオリサーチのシンクタンク「ひと研究所」では「推し活」に関する研究をしています。この記事では2025年最新の「推し活」実態調査の分析結果を示しており、推しがいる人の割合や、推しジャンルを年代別に知ることができます。

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<推し><推し活>という言葉は、かつてはアイドルやアニメキャラなど"応援する対象"を指すものでしたが、今では「おすすめ」や「イチオシ」といった意味でも使われるようになり、その定義は広義化しています。2025年現在、<推し活>はよりライトに、より日常的に浸透しつつあります。
SNSで推しの投稿に「いいね」する、推しの動画を視聴する、推しのグッズを少しだけ集める──そんな"ゆる推し"スタイルが増える一方で、推しの存在が生活の中心になっている、いわゆる"沼っている"人たちも少なくありません。彼らにとって推し活は、趣味を超えた「生きがい」であり、人生そのものとなっています。

近年、こうした"深い関わり"を持つファン層に対して、急速に企業やブランドの関心が高まっています。推しとの関係性が日常の行動や消費に強く影響することから、エンゲージメントの高い顧客層として注目され、マーケティングや商品開発の新たなターゲットとして位置づけられるようになってきているのです。そこで私たちは、推し活における推しとの関わりの深さをより客観的に捉えるため、「沼り度」を生活者の心理の観点から指標化してみました。

推し活の"深さ"を見える化─「沼り度」を読み解く

ひと研究所では推し活の「沼り度」をより精緻に捉えるために、心理学的な尺度をもとに推し活における"依存性"や"没入度"などに関する49項目を設定。「推し活をすることで生活が楽しくなった」といったライトなものから、「推し活をするあまり、仕事や学業に支障をきたすことがある」といった項目まで幅広く設定し(図1)、49項目それぞれについて、本人の自覚的な関与度を聴取し、「沼り度」を分析してみました。

【図1】「沼り度」を測るための心理的尺度49項目(あてはまると回答した人が多い順)「沼り度」を測るための心理的尺度49項目(あてはまると回答した人が多い順)

『沼り度』を測る指標

・総合指標(50段階での評価)
【図1】の「沼り度」を測るための心理的尺度49項目で「あてはまる」と回答した項目数が多ければ多いほど『沼り度』が高いと定義し、0~49個の50段階で定義しました。

・個別指標(因子による評価)
「沼っている」と一言で言っても人によって「沼り方」は異なり、様々な推し活タイプがあります。そこでひと研究所では、【図1】で掲載している心理尺度の49項目をもとに因子分析※1を行いました。項目間の共通性に着目して、推しがなくては今の生活が成り立たないと思う「生活中心因子」、推しや推し活のことを思い浮かべると元気が出る「心の支え因子」、自身の推し活が推しに貢献できていると感じている「貢献意識因子」などの12の特徴的な因子を導き出しました(図2)。

※1 因子分析...データが持つ複数の要素に共通する因子を探り出す分析手法。消費者行動の背景を理解する目的で、マーケティングや心理学などの分野で用いられる。

【図2】因子分析結果12因子(推し活タイプ別) consumer250815_02.png

総合指標(50段階評価)と個別指標(因子による評価)との関連性を見ると、連動している(総合指標であてはまる項目数が多いと、おおむね各因子の"因子得点"の数値が高くなる)ことが分かりました(図3)。推し活の「沼り度」を測る指標として両指標をどのように使用するのが適切かはまだ研究途中ですが、本記事ではひとまず「総合指標(50段階評価)心理的尺度49項目にあてはまる数が多いほど沼り度が高い」を採用し、「沼り度」が高い人とはどのような人なのかを分析していきます。

【図3】「沼り度」総合指標と個別指標(因子得点)との関連性「沼り度」総合指標と個別指標(因子得点)との関連性

「お金」より「時間」が沼りの要因に?「沼り度」が最も高い人は「時間消費」×「発信」×「交流」

心理的な影響を"結果"と捉え、そこに至るまでにどんな行動の積み重ねがあるのかを明らかにするために、「推し活行動」に着目しました。推し活においてどのような行動パターンをとっている人が「沼り度」が高くなるのかを明らかにしていきます。

まずは動画を見たり、イベントに参加したり、グッズを購入したりする、「推し活」と呼ばれる代表的な体験や行為25項目を挙げ調査し、それらを9つの行動種にまとめました(図4)。次に「沼り度」(【図1】総合指標)の多いー少ないによって、それら行動種の組み合わせパターンを13個抽出しています(分析手法として決定木※2を採用)。

その結果、総合指標(50段階評価)が最も高い、すなわち沼り度が最も高い人は「時間を使う」「発信する」「交流する」という組み合わせの推し活行動をとっていることがわかりました(図5)。
※2決定木分析...データの分類やパターンを抽出する分析手法。設定した目的変数に対して様々な説明変数を用いて分岐・分類して把握することで、影響を与えている要素を見つける手法。

【図4】推し活行動(9種/25項目)推し活行動(9種/25項目)

【図5】総合指標(50段階評価)における「沼り度」が高い人の行動パターン総合指標(50段階評価)における「沼り度」が高い人の行動パターン

次に、この「沼り度」が高い人順の行動パターン別に個別指標(因子による評価)でも見てみます。各因子2位以下にバラつきは見られるものの、12因子中11因子において、総合指標と同じく「時間を使う」「発信する」「交流する」が最も高くなる結果でした(図6)。

【図6】「沼り度」が高い人の行動パターンと個別指標(因子による評価)「沼り度」が高い人の行動パターンと個別指標(因子による評価)

つまり、「沼り度」が最も高い人は、「時間を使う」「発信する」「交流する」という3つの行動を組み合わせて<推し活>をする人であるということがわかりました。
さらに最も「沼り度」が高い人は「時間を使う」という点が共通しており、推し活における"時間の消費"が"沼る"ための重要な要素となっているようです。

一方で、「お金を使う」という行動については、「沼り度」の高低による明確な違いは見られませんでした。「沼り度」が高い人も低い人も、共通して「お金を使う」行動をとっている傾向がみられます。ただし、ここでいう「お金を使う」とは、金額の大小ではなく、「使っているか/使っていないか」という0か1かの観点を意味します。したがって、どれだけ多くのお金を使っているかではなく、推し活において金銭的な支出があるかどうかという有無に着目している点に注意が必要です。

いずれにしても、推し活における「沼り度」は、どれだけ時間をかけ、どのように関わっているかという行動に表れるのかもしれません。

次回予告:推しをきっかけに周囲へと波及する"好感"をブランド戦略のヒントに

次回の記事では、推し活の「派生行動」からみる、推し活喚起の方向性について探っていきたいと思います。
推し活に熱中するファンは、推しそのものだけでなく、推しに関わるモノ・コト・場所にも強い愛着を抱く傾向があります。この愛着は、推しの地元への聖地巡礼や、推しが愛用する商品の購入など、消費行動に広がりをもたらしています。
次回は、この周辺好意を起点に推し活マーケティングを「販売促進」から「ブランド戦略」へと進化するためのヒントやアプローチについて探っていきます。
<推し活>研究やメディアでの引用・紹介にご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にお問い合わせください。

【ひと研究所 推し活・ファンエンゲージメント調査2025 調査概要】
調査日 :2025年1月31日(金)~2月2日(日)
調査手法 :web調査
調査エリア :全国
サンプルサイズ :13,786(スクリーニング調査)
対象者属性 :男女15~69歳

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<参考資料>

【図7】因子分析結果1(推しが一番因子/金銭消費因子/時間消費因子/没頭・集中因子)活図因子分析結果1(推しが一番因子/金銭消費因子/時間消費因子/没頭・集中因子)活図

【図8】因子分析結果2(生活中心因子/心の支え因子/推し情報追及因子)因子分析結果2(生活中心因子/心の支え因子/推し情報追及因子)

【図9】因子分析結果3(周辺好意因子/推し全肯定因子)因子分析結果3(周辺好意因子/推し全肯定因子)

【図10】因子分析結果4(貢献意識因子/生活充実因子/アイデンティティ因子)因子分析結果4(貢献意識因子/生活充実因子/アイデンティティ因子)

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