【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】政治的暗雲を振り払ったパラマウント買収 エリソン新体制が描く再建計画

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】政治的暗雲を振り払ったパラマウント買収 エリソン新体制が描く再建計画

トランプ大統領による200億ドル訴訟という予期せぬ暗礁に乗り上げていたスカイダンス・メディアによるパラマウント・グローバル買収が、ついに完了した。デヴィッド・エリソンCEO率いる新体制は先週、ハリウッドのパラマウント・ピクチャーズ本社で記者会見を開き、この老舗スタジオの野心的な再建計画を発表した。

その政治的な経緯は以前の記事を参照していただくとして、今回はデヴィッド・エリソンによる再建計画について注目したいと思う。

パラマウント・ピクチャーズといえば、かつてはハリウッドを代表する名門スタジオの一つだった。1912年創立という映画界最古参の歴史を誇り、「ゴッドファーザー」三部作、「チャイナタウン」「フォレスト・ガンプ/一期一会」「タイタニック」など、映画史に残る傑作を数多く世に送り出してきた。

しかし、近年の凋落ぶりは目を覆うばかりだった。

ネットフリックスをはじめとするストリーミングサービスの台頭に対応できず、自社配信サービス「Paramount+」は赤字を垂れ流し続けた。

新型コロナによる映画館収入の激減、2023年のハリウッド・ダブルストライキによる製作停止、そしてケーブルテレビ離れの加速----これらの要因が重なり、かつての名門は存亡の危機に瀕していた。

多くのハリウッドの一流監督たちからも敬遠されるようになり、大作映画の誘致さえままならない状況に陥っていたのである。

こうした苦境の中で現れた救世主が、スカイダンス・メディアだった。皮肉にも、同社は「ミッション:インポッシブル」や「スター・トレック」といったパラマウントの看板シリーズを製作してきた実績を持つ。

スカイダンスの強みは、デヴィッド・エリソンの好みを反映した徹底したエンタメ至上主義にある。近年のストリーミングサービスが低予算のオリジナル映画を量産する中で、同社は一貫して劇場体験を重視した大作エンターテイメントに特化してきた。

「ミッション:インポッシブル」シリーズ、「スター・トレック」リブート三部作、そして「トップガン:マーヴェリック」----いずれも観客を劇場に足を運ばせる求心力を持つ作品ばかりだ。

「我々が製作する映画は劇場公開を前提としたものになります」というエリソンの宣言は、単なる方針転換ではない。それは、ストリーミング時代にあってもなお、映画館という「特別な体験」の価値を信じ続けてきた彼の一貫した哲学の表れなのである。

新体制の最初の大きな挑戦は、パラマウントの映画事業の抜本的立て直しである。長年の投資不足に苦しんできた同スタジオは、現在年間わずか8本の映画しか製作していない。「これでは劇場映画ビジネスを維持することはできません」と、共同会長に就任したダナ・ゴールドバーグは指摘する。

エリソンのチームは、製作本数を15本、そして最終的には年間20本まで大幅に拡大する計画を発表した。

「我々の最大の優先事項の一つは、パラマウントを世界で最も才能ある芸術家や映画クリエイターにとってナンバーワンの目的地として復活させることです」とエリソンは力を込めた。「シンプルに言えば、偉大な映画クリエイターが偉大な映画を作るのです」

この野心的な計画の中核を担うのが、同社が誇る人気フランチャイズの拡充だ。特に注目されるのは「トップガン3」の製作である。ゴールドバーグは、買収発表後にトム・クルーズに電話をかけたエピソードを披露した。

「それは、率直に言って、彼がパラマウントの歴史、現在、そして未来にとってどれほど重要な存在であるかに感謝するためでした」とゴールドバーグは語る。「『トップガン3』は我々にとって最優先事項です」

エリソンとクルーズの関係は、スカイダンス設立時の2010年まで遡る。同社は「トップガン:マーヴェリック」や最近の「ミッション:インポッシブル」シリーズを共同製作してきた実績を持つ。この継続的なパートナーシップは、新パラマウントの戦略の要石となりそうだ。

また、「スタートレック」シリーズも全社的な優先事項として位置づけられている。「『スタートレック』は会社全体で優先的に取り組むフランチャイズです」とゴールドバーグは明言した。

さらに「ワールド・ウォーZ」や「トランスフォーマー」といった知的財産の活用も積極的に進める方針だ。

新体制の本気度を示すのが、立て続けに発表された大型投資である。パラマウントはUFC(総合格闘技)のアメリカでのストリーミングおよびテレビ放映権を2026年から7年間にわたり、77億ドルで獲得すると発表した。これにより、Paramount+配信サービスとCBSでUFCの試合を独占配信することになる。

コメディ・セントラルの「サウスパーク」の制作者トレイ・パーカーとマット・ストーンとの間で、5年間で15億ドルの契約を締結。アニメシリーズはParamount+で独占配信されることになった。

しかし、華々しい投資計画の裏で、厳しい現実も待ち受けている。スカイダンスとパートナーのレッドバード・キャピタルは、投資家に対して20億ドルのコスト削減を約束している。これは更なる人員削減と組織再編を意味する。

そんな中、注目すべきニュースが飛び込んできた。エリソンの「才能あるクリエイターの獲得」戦略は、すでに成果を見せ始めている。

「ストレンジャー・シングス」のクリエイターとして知られるダファー兄弟が、ネットフリックスからパラマウントへの移籍交渉を進めていることが明らかになった。

この移籍では、大作映画の製作に重点を置く契約が検討されており、新たにストリーミング責任者に就任したシンディ・ホランドとの再会も実現する。ホランドは元ネットフリックス幹部として「ストレンジャー・シングス」の製作を承認した人物だ。

ネットフリックス史上最大のヒット作の一つを生み出した才能をパラマウントが獲得できれば、同社の「世界で最も才能あるクリエイターの目的地」という目標に向けた大きな一歩となる。ダファー兄弟の移籍は、エリソンが単なる財務的再建ではなく、真の創作力の結集を目指していることを示している。

政治的暗雲を振り払い、ついに船出したパラマウントの新章。果たしてエリソンの描く再建計画は、この名門スタジオを再び頂点へと押し上げることができるのだろうか。

<了>