東急エージェンシーのテレビ番組セールスシステム「WAKUDAS」 開発プロジェクトの舞台裏に迫る

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東急エージェンシーのテレビ番組セールスシステム「WAKUDAS」 開発プロジェクトの舞台裏に迫る

(写真左から)
株式会社東急エージェンシー メディアソリューション局 テレビ営業推進部 小野優斗氏
テレビCM セールスの際に、営業部門と連携してクライアントと向き合う業推担当として、提案活動を推進。「WAKUDAS」ローンチ前は、テレビ番組情報をテレビ担当(各放送局の局担)から入手し、取りまとめを行う。

株式会社東急エージェンシー テレビビジネス局 第3テレビビジネス部 部長 新谷 健氏
開発当時は、テレビのCM セールスを取りまとめるメディアソリューション局 テレビ営業推進部の部長として、テレビ番組セールスシステム「WAKUDAS」開発プロジェクトを統括。

株式会社ビデオリサーチ システムソリューションユニット プラットフォームサービス開発グループ 峯藤孝圭
本プロジェクトのホストマネージャーとして、東急エージェンシー 新谷氏をはじめとする開発担当者とともに要件整理をするほか、開発スケジュール管理、品質管理、リリースの判定などを担当。

システムソリューションサービスでテレビ・広告領域のビジネス課題を解決

ビデオリサーチは新たにスタートした中期経営計画「Vision2027」において、知恵と情熱でデータ&システムを駆使する「ソリューションカンパニー」を目指していきます。それを支える三つの注力領域のうち、「システムソリューションサービス」では業界共通課題への対応、業界標準化支援に注力することで顧客とより継続的な関係を構築していきます。
その取り組みの一つとして、2025年6月に社内ローンチした東急エージェンシーのテレビ番組セールスシステム「WAKUDAS(ワクダス)」の開発を担当しました。そこで本記事では、この新システム「WAKUDAS」の開発秘話や導入の効果、今後の展望などを紐解きます。 お話しいただくのは、「WAKUDAS」プロジェクトの発起人であり、開発を推進した東急エージェンシーの新谷健氏、現場ユーザーである同社の小野優斗氏。さらに、システム開発のホストマネージャーを務めたビデオリサーチの峯藤孝圭も加わり、プロジェクトを振り返ります。

タイムCMセールスの方法も見直して、最適なオリジナルシステムを

旧システムの老朽化とテレビ改編期の業務量の増加が課題だった

― 6月に社内ローンチしたテレビ番組セールスシステム「WAKUDAS」の開発を始められた経緯を教えてください。どのような課題があったのでしょうか。

新谷 まず、旧システムの老朽化が挙げられます。我々はクライアント企業にタイムCM(テレビ番組中に放送されるスポンサー枠のCM※1)の提案をする際、その成果を示すレポート作成に、20年間にわたって同じシステムを使い続けていました。しかし、スピードと使い勝手の面でそろそろ限界だと感じるようになり、3年ほど前から社内で「システムを刷新しよう」という声が挙がっていました。
また、旧システムは、テレビ番組のCM 販売情報を集約するテレビ担当しか操作できなかったことにも問題がありました。クライアントにCM プランを提案する際には、まず、業推担当からテレビ担当に希望番組のレポートの作成を依頼。その度に、テレビ担当が条件や金額を手入力する作業が発生し、どうしても時間がかかっていました。特に年に2回あるテレビ局の改編時期に業務量が増え、時代に逆行した働き方になっているという課題もありました。

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小野 タイムCMの提案を考える際には、条件に合う番組の情報をなるべくたくさん集めて比較検討したいので、おのずと依頼件数も多くなります。1番組分のレポートを作成するのに数十分ほどかかるとすると、10番組分で数時間。そのため、頼む側としても、「急いで出してください」とはなかなか言えなかったところがあります。また、作成してもらったレポートの内容によっては、さらに別の番組と比較したいというケースも発生します。「今度はこちらの番組のレポートを出してください」といったやりとりを繰り返していると、さらに時間がかかってしまうのです。

新谷 加えて、テレビ視聴の指標が世帯視聴率から個人視聴率に変わってきたことも大きな変化です。デジタル広告が台頭し、さらにコネクテッドTV が一般化するなかで、imp( インプレッション:デジタル広告が表示された回数) やCPM(広告の到達人数)などを活用して個人の視聴状況を把握する必要が生まれています。個人単位のデータにフォーカスして検討しなければならない今の時代に、旧システムでは対応しきれなくなるという懸念もありました。
そこで、具体的にどのようなシステムが最適なのかを検討するため、社内でプロジェクトを発足。今までどのようにセールスをしていたのか、これからはどのようなセールスをしていきたいのか、他社はどのようなシステムを使っているのか......。さまざまな視点で議論を重ねた末、「セールス方法をイチから見直して、最適なシステムを模索しよう」という方針で改良の方向性を探っていくことに。その糸口が見えてビデオリサーチに声をかけたのは、2024年の5月頃でした。

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提案力×データの知見。両社の強みを活かした取り組みに

― システム開発のパートナーとしてビデオリサーチを選んだ理由を教えてください。

新谷 実は何社かにお声がけしたうえで、決めました。決定の理由は、ビデオリサーチは視聴率データに関する知見を一番持っていること。我々がもともとビデオリサーチの視聴率分析システム「iNEX3※2」を導入しており、新たに開発するシステムにも組み込めること。そして、我々が想定していたよりも開発費が安価だったことでした。

峯藤 「iNEX3」は、広告業界の方に広くご利用いただいている汎用性の高いシステムです。オリジナルの自社システムを開発するとどうしても費用が高額になりますが、今回はベースに「iNEX3」を組み込むことでコストを軽減。東急エージェンシーとビデオリサーチのデータ資産を組み合わせ、コストパフォーマンスが良く、高品質なシステムを構築できたと感じています。

新谷 私たちも、当初から「iNEX3」と似たようなUIがベストだと考えていました。特に、「iNEX3」の視聴率集計のように「番組」「特性」「集計期間」などの条件を指定して、該当する全番組の一覧を出力する機能は絶対に欲しいと思っていました。

複雑化するタイムCM 提案。一つの番組に多彩な情報を紐づける工夫

― 今回開発した、新システム「WAKUDAS」の特徴を教えてください。

新谷 タイムCMセールスの提案材料となる多彩な情報をまとめたレポート作成ツールです。出力できるレポートは2種類あり、指定した条件に当てはまる番組を抽出して各種セールス情報をExcelで出力する「番組一覧シート」と、1番組ごとの基本情報などをまとめた「セールスシート」を作成できるのが特徴です。

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― 開発は、どのように進められたのでしょうか。

新谷 見積もりの段階で大枠の画面イメージは決まっていたので、それを共有しながら趣旨を説明するところから始めました。ただその後、詰めるべき多数の要件定義について一つ一つ議論していく中で、「これを追加したい」「この機能に変更したい」など、予定外の希望がたくさん出てきてしまいました。

峯藤 ビデオリサーチとしても、このプロジェクトが「システムソリューションサービス」の第1号案件でした。従来のように視聴率のデータ提供をするだけでなく、「このツールを業務の中でどう使うのか?」「どう設計したら、業務がスムーズに行えるのか?」といった視点が必要となり、理解しなければならないことがたくさんありました。最初の約2カ月間は毎週のように要件定義の会議を開いていました。

新谷 議論に一番時間をかけたのは、一つの番組に多様なセールス情報を紐づけて表示する方法を模索することでした。例えば、番組ごとに放送局数が違いますし、特定の曜日だけ1日おきの放送となる「テレコ」、全放送日に流す「ベルト」など、提供曜日や曜日指定の仕方も本当に多くのパターンが存在します。

峯藤 それに対してビデオリサーチのシステムは、一つの番組に一つの条件、つまり「放送局、提供曜日など、どれか一つの条件に固定して情報を集計する」ことを基本に設計されています。これを、「さまざまな条件の結果を一発で集計する」仕様に変更するので、裏側では非常に複雑な処理が必要になります。その要件定義を整理するのが一番苦労したのと同時に、これまでにない新しいシステムとなった大きなポイントだと思います。

新谷 その後の開発フェーズでも、追加で変更・修正をお願いしました。ただ、中にはかなり工程をさかのぼらないと変更、修正を反映することが出来ないケースもあり、峯藤さんに「現実的にできること」「できないこと」をはっきり言っていただけて非常に助かりました。例えば、開発の最終段階で、「番組一覧シートに備考欄を入れてほしい」と相談したことがありました。私は、「一覧表に一つ行を挿入する、軽微な修正なのでは?」と思っていました。

峯藤 私の認識もずれていて、「備考=メモ」程度の情報だと想定していたら、実は「備考=セールス状況やルールなど非常に重要な項目」ということでした。確かに、Excel 上では行を挿入するだけなのですが、この時点で新システムは「備考」のデータを取り込む仕様にはなっていませんでした。そのため、この「備考」データを取り込み、それをレポートに出力するという二つの処理を追加する必要があり、大変申し訳ないのですが「このタイミングで追加しますか?」という話はさせていただきました。

新谷 「備考」はどうしても入れたかったのですが、私たちも最初にそのことをしっかりお伝えできていませんでした。まずは、次の番組改編のタイムCMセールス時期に合わせて6月にローンチすることを優先して、急きょ、別の解決策を考えていただきました。

峯藤 「WAKUDAS」の番組一覧シートに実装している別の機能を使って、当初は備考欄に表示しようと考えていた情報を入力していただくかたちで運用することになりました。

新谷 私たちも、「最もミスが起こりにくい方法とは?」という議題で話し合い、今できるベストな解だと判断しました。ただ、これはあくまで一時的な回避策です。今後、必要であれば二次開発していく方向で考えています。

信頼性と拡張性の高いシステムで、幅広いCM提案を

社内外の情報共有がスムーズに。業務の効率化と提案の精度向上が実現

―「 WAKUDAS」のローンチ後、業務においてどのような成果が得られましたか。

小野 まず、今までテレビ担当に頼まなければいけなかったレポート作成を、業推担当である私でもスピーディーにできるようになりました。シートの枚数やテレビ担当の業務状況にもよりますが、1日かかっていた作業が10分で終わるくらいのスピード感です。ですから、「急いでクライアントにプランを提案したい」という場合でも、時間がないから提案できないことがなくなり、ビジネスチャンスをフルに活かせるようになりました。これが最大の効果ですね。
また、最初に番組一覧シートを出力すれば、候補となる全番組を網羅的に確認できるのもポイントです。何百という膨大な数の番組の中から考えられるので、提案の精度・バリエーションが向上し、クライアントにとって本当に最適な番組を提案できるようになったと感じています。さらに、社内の他部署と連携する際、同じシステムを使うことによって素早い情報共有が可能になりました。例えば、他部署の担当者が視聴率やターゲット別のデータを見て最適な番組をピックアップし、それを受けて私がCMの空き枠や料金を見て最終的な提案プランを決定するといった連携です。2部署間で同じ情報を起点に、齟齬なく、スムーズにやりとりができるようになりました。誰もが簡単に操作できるという点でも、メリットは大きいと感じています。私も使い始める際に操作方法の説明を受けましたが、驚くほど直感的に使うことができました。「初めて触るのに、使い慣れている感じがする」といった声は、社内から本当に多く聞いています。

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― そのほか、社内からどのような声が挙がっていますか?

小野 営業(ビジネスデザイン)部門からは、「プロモート作業がしやすくなった」「ビジネスチャンスが広がった」という声も多く聞いています。例えば、テレビ番組の改編時によくあるのが、「クライアントにとって最適な提案をしたいけれど、予算感が決まっていない」というケースです。この場合は予算別に何案か提案する必要があり、一度で最適解を出せない可能性もあります。しかしそのような時にも、営業の担当者が自ら「WAKUDAS」でササっとレポートを出力して、テレビ担当に料金・空き枠情報のチェックだけしてもらえば、そのまま提案に行けるようになったのです。提案する内容にもしっかりとした裏付けがあるので、信頼性の向上につながっていると感じています。

ドアノックから改善提案まで。説得力あるデータで「攻めて守る」

― 今後、このシステムをどのように活用していきたいと考えていますか?

新谷 ローンチしたばかりの現在、第一段階として約100名の社員が「WAKUDAS」を活用しています。今後、業推担当とテレビ担当を中心に社内での認知度を高め、このツールを使ってクライアントにどのようなアプローチをしていけばよいかを模索していきたいですね。そして、クライアントと直接向き合う営業自らが主体となって、自信を持って営業活動に邁進できると、より骨太な会社に成長できるのではないかと考えています。

小野 とてもライトな感覚でレポートを出力できるので、今後はドアノックツールとしても使えると感じています。だから、多くの人に活用してもらいたい。そのためにも、「クライアントへの提案は、もっと気軽にできる!」ということを周知していきたいと思います。

新谷 そうですね。さらに、信頼関係が築けているクライアントにも「攻め」の提案ができるツールなのだと思っています。例えば、安定的に継続できているクライアントに番組一覧シートを持っていき、「前回まではこういう提案をさせていただいていましたが、こちらに入れ替えませんか?」といったことも可能になります。

小野 番組一覧シートには、全番組の中で各番組がどの辺にランキングされているのかが記載されているので、「ランキングを上げますか?」という提案もできるし、「だからこの番組が最適ですよ」ということも説得力を持って言える。まさに、「攻めて守る」のどちらにも使えるツールですよね。

新谷 そのほか、デジタル一辺倒だったクライアントに対しても、視聴者数やインプレッションなども比較しながら、「テレビはこんなに効率がいいんです」という話もできます。この部分も意識して開発したので、こういったかたちでぜひドアノックに活用していただけると嬉しいです。

 

新しいデータ分析方法を取り入れ、拡張性のあるシステムを!

― 最後に、このプロジェクトを振り返っての感想や、ビデオリサーチに期待することなどをお聞かせください。

小野 全ての可能性の中から最適な提案をするのが、セールスの本質です。そして、今回開発した新システムはセールスの本質を突き詰められる最良のツールだと感じました。しかも、私たち現場ユーザーは難しさを一切感じずにすぐに使いこなすことができました。改めて、システムのベースとなった「iNEX3」が、ユーザー目線で設計されていることも認識しました。

新谷 ビデオリサーチは視聴率データで圧倒的な実績を持っているので、信頼性と拡張性に期待してご一緒しました。それらに加え、サポートや開発の面でも、真摯に私たちに寄り添ってくださったことに感謝しています。今後、コネクテッドTVをはじめとするデジタルが普及するなど、業界全体が大きく変わっていきます。そういった動向や新しいデータ分析方法を教えていただきながら、より良いセールス方法を模索していければと考えています。

峯藤 どうもありがとうございます。ビデオリサーチとしても、システムソリューションの開発は中期経営計画「Vision2027」の大きな柱になっています。今回のプロジェクトを機に、東急エージェンシー様オリジナルシステムをさらに進化させ、より使いやすいツールにすることができればと思っています。引き続き、よろしくお願いいたします。

 

※1 タイムCM
特定のテレビ番組のスポンサー(協賛社)として提供するテレビCM のこと。番組ごとにCM枠があり、提供時間は30秒、60秒、90秒などがある。料金は一律ではなく、視聴率や視聴者層、放送エリアの広さ、時間帯などによって番組ごとにさまざま。契約は、2クール(6カ月)単位で、春と秋の番組改編のタイミングで行われる。

※2 iNEX3
ビデオリサーチが提供するテレビ視聴率分析、テレビCM 統計、テレビCM 事後評価などメディアプランニングの各種データを統合したデータサービスシステム。1996年のシステム導入開始以降バージョンアップを重ね、2018年10月にiNEX3へ移行。

テレビCMについて詳しく知りたい方はこちらもご参照ください。

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