FYCSの目指すカタチとは?【VR FORUM 2025】

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FYCSの目指すカタチとは?【VR FORUM 2025】

[登壇者]
(上段右から)
読売中京FSホールディングス株式会社
代表取締役社長 石澤 顕 氏

読売中京FSホールディングス株式会社
シナジー戦略局長 鈴木 教弘 氏

読売テレビ放送株式会社
ビジネス局 東京ビジネスセンター長 兼 東京ビジネス部長 三田谷 卓郎 氏

(下段右から)
中京テレビ放送株式会社
メディア戦略局長 市 健治 氏

株式会社福岡放送
執行役員技術局長 野田 清茂 氏

札幌テレビ放送株式会社
取締役総務局長 古川 祥司 氏

株式会社ビデオリサーチ
執行役員 ネットワークユニットマネージャー 合田 美紀

2025年4月、日本テレビ系列の4社が経営統合し、新たな認定放送持株会社・読売中京FSホールディングス株式会社 (FYCS)が設立されました。連携によって生まれるスケールメリットをどう事業戦略に生かしていくのか、そしてFYCSが掲げるNext STANDARDについて伺いました。

4社連携により生まれた、FYCSの意義とは

セッション前半に登壇したのは、FYCSの代表取締役社長 石澤 顕氏。設立の目的や経営戦略について解説しました。

新たなメディア価値を創出し、エリアを、組織を、前例を超える

読売テレビ放送、中京テレビ放送、福岡放送、札幌テレビ放送の共同株式移転により設立されたFYCS。その設立目的について石澤氏は、「4社が連携し、新しいメディア価値を生み出す仕組みを構築すること」と説明しました。4局のサービスエリアは約2000万世帯で、関東(1都6県)のキー局と同等の市場規模。石澤氏は「この広域ネットワークを生かし、各地域の生活者、そして全国へどのような価値を届けられるかが鍵」と意気込みを語りました。

組織は、シナジー戦略局、総務人事局、経理財務局の3局で構成。現在は、シナジー戦略局を中心に、4社横断型の6つのプロジェクトが進行中だといいます。石澤氏はこの運営体制について「アメーバのような組織」と表現。必要であれば傘下に目的に応じた分科会を作るなど、柔軟な組織運営でミッションを推進していくと述べました。

モデレーターを務めたビデオリサーチの合田は、2022年のフォーラムで石澤氏が掲げた「テレビを超える挑戦」というテーマに言及。その考えが現在のFYCSの取り組みにどうつながっているのか問いかけました。

これに対し同氏は、「テレビを超える挑戦」というテーマの延長線にFYCSがあると説明。4社が連携することで、個々では実現できなかった新たな挑戦に踏み出せるとし、「エリアを超え、組織の壁を超え、時には前例をも超えることができる」と意欲を示しました。

また、グローバルコンテンツ企業として海外にも目を向けていると石澤氏。「海外戦略」を推進している日本テレビの持つ知見やネットワークを活用し、海外市場における販路の開発・拡大にも取り組んでいく考えを明かしました。

経営戦略の軸となるのは、「スケールメリット」と「シナジー」

続く話題は、経営戦略について。石澤氏は、「『スケールメリット』『シナジー』の両立がFYCSの経営戦略における軸となる」と説明しました。

「スケールメリット」については、4社の経営資源(ヒト・モノ・カネ)を合わせることで、個社では実現できなかった新たな挑戦に踏み出せると言及。例えば資金面では、「4社の出入金作業を統合管理することで浮いたリソースを新たな価値創出に充てられる」、人材面では、「IT分野の強靭化について。専門知識を持つ各社の人材が連携して研究・技術開発に取り組むことで、最適化されたサイバーセキュリティを広域で機能させることができる」と語りました。

加えて、「シナジー」についても説明。とりわけコンテンツ制作の面でのメリットが大きいとし、すでに各局の朝帯・夕方帯の生放送番組でコラボレーションやFYCS制作の共同セールス番組の制作も実現したといいます。

ここで合田が、第二位株主である「読売新聞グループ」に着目し、メディア特性の異なる新聞社とのシナジーについて問いかけます。

これについて石澤氏は、「伝統メディア同士『信頼が第一である』という同じ価値観を持っている。言うなれば『信頼のシナジー』でつながっている関係だ」と回答。地方公共団体の公募案件における両メディアの強みを掛け合わせた提案で、地元貢献、地域創生にメディアとしての責任を果たしていくことや、不動産分野で先行する新聞社の情報や知見の利活用などを挙げ、連携の意義を伝えました。

連携によって生まれる効果と、持続可能な運営に向けた課題点

FYCSの設立による効果について石澤氏は、「従来のキー局を起点とする垂直的な連携に加え、『水平的な連携軸』が生まれることで系列各局の強靭化につながる」と言及。利益拡大、コンテンツの質向上、人材交流の活性化などの効果をもたらし、系列全体のブランドアップに期待できると述べました。その上で石澤氏は、「全てのステークホルダーから、FYCSがあってよかったと言われるような存在でありたい」と意欲を示しました。

一方、課題については「施策を持続できる運営体制を整えること」だと吐露。特に共同制作・共同セールスを恒常化するには、それを支える「共同収支管理システム」の構築が不可欠だといいます。また、個社の利益だけでなく、FYCS4社、さらには系列全体の利益を「三位一体」で考える「意識改革」も重要だと強調しました。

右から 読売中京FSホールディングス株式会社 代表取締役社長 石澤 顕 氏 株式会社ビデオリサーチ 執行役員 ネットワークユニットマネージャー 合田 美紀

多領域に広がる、FYCSの連携事例

後半は、FYCSがどのように「スケールメリット」や「シナジー」を生み出しているのかーーその具体的な取り組みについて、5名の登壇者が実例を交えて語りました。

「スケールメリット」と「シナジー」を生み出す、6つのプロジェクト

はじめに、FYCSのシナジー戦略局長の鈴木 教弘氏が、改めて組織体制と稼働している6つのプロジェクトについて解説しました。

FYCSの本社は、東京・汐留の日本テレビタワー。各社から出向した7名の社員が、キー局である日本テレビと一体となって様々な施策を推進しているといいます。鈴木氏が在籍するシナジー戦略局のミッションは「スケールメリット」と「シナジー」の創出。そのミッションを推進するために、「編集制作」「営業」「技術DX」ほか6つのプロジェクトを4社横断的に立ち上げたと語ります。

札幌テレビ放送の古川 祥司 氏は、ホールディングスの設立までの道のりを振り返り、その苦労を伝えました。

経営統合にあたっては、まず各社のデューデリジェンス(企業価値やリスクの診断・調査)を実施。用意しなければならない資料が膨大で、その収集・整理が何より大変だったといいます。さらに「(公表前だったため)極秘で作業せねばならず、周りの社員には異様に映ったはず」と、当時の様子を明かしました。

4局初の共同制作番組、『未来人に残したい! ふるさとタイムレスカプセル』

続けて話題は、実際の取り組み紹介へ。はじめに中京テレビの市 健治氏が取り上げたのは、「番組の共同制作」についてです。

第一弾として実施したのが、4局が制作する朝番組内のコラボレーション企画。各局のアナウンサーが地元球団の情報発信を行ったといいます。その後、夕方帯の番組でも連動企画を展開。各局を中継でつなぎ、地元のおすすめスポットを取り上げたコーナーを紹介しました。

そして2025年6月に、初の4局共同制作番組として『未来人に残したい! ふるさとタイムレスカプセル』を放送。人気男性グループ「timelesz」をMCに迎え、4局の放送エリアにある未来に残したいおすすめのグルメや文化、有名人などを紹介する同番組は、「前向きなシナジーを生み出す象徴的なプロジェクトになった」と語ります。

しかし、「共同制作の実現は簡単ではなかった」と市氏。バラエティー班は横のつながりがほぼなく、各社が何に力を入れているのか、どのような体制で制作しているのかも知らなかったと述べます。

そのため、本番組制作においてはまず「お互いを知る」ことを目的に、「各社の個性を発揮するにはどうすればいいか」を模索。結果、各局がそれぞれの担当エリアでリサーチからロケ、編集まで責任を持つ制作体制を採用しました。制作の過程では忖度や意見の衝突などもあったが「お互いの理解と結束を深め、今後のシナジーにつながる良い実績になった」と、市氏。関係性も深まり、すでに次の企画に向けた動きも生まれているといいます。

「本番組のセールスに関しても、初めての挑戦があった」と話すのは、読売テレビの三田谷 卓郎氏です。

4局同時にCMがオンエアされる「共通枠」を8枠用意したところ、すぐに完売。大きな成果を感じた一方で、スポンサーの要望に応えきれなかった部分もあり、反省も残っていると振り返りました。また、スポンサーがエリアを越えてCMを展開する際、業態考査から始める必要があり調整に時間を要するなど、課題も見えてきたといいます。こうした経験を踏まえ、「今後は事前準備期間をしっかり確保し、よりスムーズなセールス体制で臨みたい」と語りました。

右から 札幌テレビ放送株式会社 取締役総務局長 古川 祥司 氏 株式会社福岡放送 執行役員技術局長 野田 清茂 氏 中京テレビ放送株式会社 メディア戦略局長 市 健治 氏 読売テレビ放送株式会社 ビジネス局 東京ビジネスセンター長 兼 東京ビジネス部長 三田谷 卓郎 氏 読売中京FSホールディングス株式会社 シナジー戦略局長 鈴木 教弘 氏 株式会社ビデオリサーチ 執行役員 ネットワークユニットマネージャー 合田 美紀

機材共有やセキュリティ強化、番組システム構築まで。技術面の連携メリット

続けて、福岡放送の野田 清茂氏が、技術面における連携事例を紹介。「具体的な施策は、『技術DXプロジェクト』の下に複数の分科会を組成して進めている」と、野田氏。例えば「制作技術分科会」では、各社の保有機材リストを共有し、機材の有効活用を推進しているといいます。4社間で機材の貸し借りができれば、外部プロダクションからのレンタル費用を削減することができると説明しました。

また、「サイバーセキュリティ分科会」では、4社のセキュリティレベルを把握するために「セキュリティ対策評価リスト」を作成。4社間でリストを共有し、相互評価を通じて組織のセキュリティ対応力向上とIT人材のスキルアップを図りたいと意気込みを語りました。

さらに、番組制作においても、各社の技術力が発揮された事例が生まれているといいます。一例として野田氏が挙げたのが、夕方ワイド内の4社連動企画『ニッポン見知らんガイド』。地元民以外は知らないスポットを4局が紹介し、視聴者が気になるスポットにWeb上でスタンプを押して投票する仕組みを番組内に取り入れました。

この企画は、もともとFBS(福岡放送)で実施していたものを4局展開したもの。他3社に企画を提案したところ、多数の好評を得て実現に至ったといいます。しかし、4局展開により視聴者数が大幅に増えるため、サーバー構築やクラウド運用、ログ収集など高度な技術対応が求められました。そこで、中京テレビがサーバー周りの支援、読売テレビが番組表示部分のシステム構築を担当。さらに投票サイトのドメインをFYCSホールディングスが提供するなど、各社の知見を結集させることで、短期間で実装できたといいます。

本取り組みに関して市氏は、「各社が素晴らしい技術を開発していても、シェアされていない現状があった。今後も技術や知見を共有し、組織全体で活用したい」とコメント。野田氏も、挑戦を続けていくと述べた上で、「リソースや情報の共有、セキュリティ強化の仕組みにおける展開方法などルール化が今後の課題だ」と指摘しました。

広がる4社の人材交流。FYCSは「頼りになる仲間を繋ぐハブ」

続けて人事担当の札幌テレビ・古川氏は、FYCS設立後の人材交流の取り組みを紹介しました。

2024年入社の新入社員が参加した「4社合同新人研修」では、『秘密のケンミンSHOW』『DayDay.』などの番組見学を実施。「自社研修だけでは得られない経験と刺激があったはず。何より系列局同期との交流は今後の大きな財産になる」と語りました。

また、2027年新卒採用に向けた「合同会社説明会」もWeb上で開催。自社の説明会では出会えなかった学生との接点が生まれたほか、学生からも「様々な放送局について知ることができた」「地方局にも興味がわいた」といった好意的な声が寄せられ、好評を博したと話します。同氏は今後もこうした人事施策を継続し、4社のさらなる組織力向上につなげていきたいと考えを示した上で「FYCSは、頼りになる仲間と自分たちを繋いでくれるハブのような存在。絆は非常に固い」と、そのメリットの大きさを語りました。

このような人材交流におけるシナジーは、あらゆる場面に広がっています。

鈴木氏は、万博会場から生放送された読売テレビ制作の音楽番組『音道楽EXPO』に、各社からスタッフを派遣した事例を紹介。札幌テレビの社員が現場で得たノウハウを持ち帰り、自社の24時間テレビで活用したエピソードを挙げました。三田谷氏もセールス社員間で定期的にミーティングが行われている状況を説明。「4局で一緒に売るという意識のもと、連携により様々な対話が生まれている」と手応えを語りました。

一方で合田から、「DNAの異なる4社が結束する難しさもあるのでは?」と問いかけが。これに対し鈴木氏は「自立していた4社が突然兄弟会社になることに戸惑いを感じることもあった。しかし、連携に関わったメンバーは手応えを得ている。これからも事例を増やし、多くの社員が関わることで連携をより強固にしたい」と意欲を示しました。

FYCSを起点に、地域・系列の垣根を越える

セッション終盤では、FYCSの今後の広がりについても議論が及びました。

市氏は、すでに中部ブロックの編成会議などを通じて企画を提案する機会があったと説明。「4局での実践した企画を、他地域でも展開できるように取り組んでいきたい」と意気込みを語りました。

セールス面では、実際に中四国ブロックに広がりが。『情報ライブ ミヤネ屋』でセールス共通枠を設け、同一エリアで同時間にCMを放送する取り組みを実施。「今後は中四国だけでなく、他地域への拡大も視野に連携の強化を進めていく」と三田谷氏は示しました。

右から 札幌テレビ放送株式会社 取締役総務局長 古川 祥司 氏 株式会社福岡放送 執行役員技術局長 野田 清茂 氏 中京テレビ放送株式会社 メディア戦略局長 市 健治 氏 読売テレビ放送株式会社 ビジネス局 東京ビジネスセンター長 兼 東京ビジネス部長 三田谷 卓郎 氏 読売中京FSホールディングス株式会社 シナジー戦略局長 鈴木 教弘 氏 株式会社ビデオリサーチ 執行役員 ネットワークユニットマネージャー 合田 美紀

FYCSが提唱する、ローカル局の「Next STANDARD」

セッションの最後には、登壇した6名が今回のフォーラムテーマ「Next STANDARD」をもとに、今後の展望を語りました。

石澤氏は「『越境連携』によるパワーアップで新しい放送局モデルへ」と表現。「連携をさらに広げ、系列全体で新しい価値を生み出すことが肝心だ」と語りました。

三田谷氏は「これまでやってこなかった事も『ちょっといいですか?』から」と題し、気軽な相談が生まれる関係の重要性を強調。「電話1本から協力が始まる文化を育てたい」と述べました。

市氏は「『あの局あの人』と最高の企画を」として、制作現場の横のつながりに期待を寄せます。「他局の仲間と一緒に考えることがスタンダードになれば、もっと面白い企画が生まれる」と期待を語りました。

野田氏は「系列全体の生産性を向上させる『新たな協力体制の構築』」を掲げ、「効率化・省力化のノウハウを地域ブロックにも広げていきたい」と言及。さらに、新たに立ち上げた「技術戦略分科会」を通じて、次世代を見据えた技術戦略の策定にも取り組んでいくと述べました。

古川氏は「超える、繋がる」というキーワードを提示。「4社の枠を超えた柔軟な人材交流や働き方を実現し、FYCSで働くことの新たな価値を創りたい」と抱負を述べました。

鈴木氏は、「『そんなことできるわけない』を『やってみたらできるもんだね』に」と表現。FYCS自体を挑戦の象徴だと、「これからも知恵と連携で不可能を可能にしていく」と力強く語りました。

4社の連携により、挑戦を続けるFYCS。それぞれの想いを受け、合田は「ビデオリサーチもローカル局のみなさまと共に、新たなビジネス、新たなテクノロジーの活用に取り組んでいきたい」とセッションを締めくくりました。

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