民放主体配信サービスが描く未来【VR FORUM 2025】

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民放主体配信サービスが描く未来【VR FORUM 2025】

[登壇者](右から)
株式会社TVer
代表取締役社長 大場 洋士 氏

株式会社radiko
代表取締役社長 池田 卓生 氏

株式会社ビデオリサーチ
ビジネスデザインユニット プラットフォームアライアンス統括 松尾 剛

ラジオもテレビも配信が当たり前になった時代に、radikoとTVerはどのような未来を描いているのか。radikoとTVerのトップをお招きし、それぞれが目指す成長戦略や、自社・業界を変えていくための取り組みについて、ビデオリサーチの松尾が伺いました。

放送と配信が融合する時代、メディアが果たすべき価値とは?

radikoの池田氏とTVerの大場氏は、それぞれ2025年に代表取締役社長に就任。池田氏はラジオ番組制作会社やTBSラジオでの経験を持ち、大場氏はテレビ朝日で技術部門やデジタル事業を歴任されています。

セッション冒頭で、松尾から「中から見たときのradiko/TVerに対するギャップ」について質問したところ、大場氏は、前職でTVer事業に関わっていたものの、中に入って初めて放送局の文化とベンチャー気質の融合によるTVer独自の文化が生まれていることに気づかされたと語ります。

一方、池田氏は、放送局から見たradikoは"インターネットのラジオ受信機"としてのイメージが強かったが、実際には聴いてほしい部分をSNSなどでシェアできる「シェアラジコ」や「オンエア楽曲ランキング」など、いちリスナーとしても魅力的な機能が充実していることを知り、今後プラットフォームとしてさらに拡充していける可能性を感じたとコメント。
両者とも、社長就任後の自社の気づきの話からセッションは始まりました。

続いて話題は「これからのメディアが果たすべき価値」へ。放送と配信が融合していく時代に、radikoとTVerがメディアとして見出そうとしている価値についてお二人にお聞きしました。
池田氏は、radikoが目指すのは、さまざまな切り口でリスナーに音声体験を届けるメディアとしての価値向上だといいます。「放送局とradikoが結束し、これからのラジオの未来を描いていきたい」と語り、キーワードとして放送局との結束=「Unity」を掲げました。

また池田氏は、社会インフラとしてのradikoの重要性についても言及。2028年にAM局のFM転換が控えていることや、FM局にとっても小規模中継局の維持や更新費用など経営に影響を及ぼすことが予測されます。池田氏は、こうしたラジオ局におけるインフラ領域の課題に対して、radikoを代替メディアとして機能していくことの必要性を訴えました。

TVerのメディア価値について、大場氏は「放送局クオリティ」のコンテンツを届けられるところだとコメント。昨今、インターネット上には多様なコンテンツが溢れ、視聴者の可処分時間の激しい奪い合いが行われています。そんな時代だからこそ、放送局が制作したクオリティの高いコンテンツや、健全な情報空間を提供できるところがTVerの大きな価値であり、視聴者や広告主にも期待されているポイントだと説明しました。

株式会社TVer 代表取締役社長 大場 洋士 氏

テクノロジーの力、放送局との連携...サービスの成長を支える挑戦

次のテーマは、TVerとradikoそれぞれが取り組む「ユーザー獲得策」について。
大場氏からはユーザー獲得策からさらに話をひろげて「いかに広告在庫を増やせるか」という視点から施策が語られました。

広告在庫を増やすには、利用者数、そして一人当たりの再生数や再生時間を増やす必要があります。そのためにTVerが注力していることの一つが、コネクテッドTV(CTV)デバイスへの対応です。2025年9月にはTVer初となるゲーム機への対応として、PlayStation®5への提供を開始。その背景には、TVerの全体再生数の38.6%をコネクテッドTVでの再生が占めているという現状があります。コネクテッドTVを利用した再生数自体も増えており、2025年3月には総再生数約1.7億回を記録しました。

コネクテッドTV コネクテッドTVデバイスへの対応に注力 全体再生数の割合は38.6%まで増加、2025年3月に1.7億再生を記録

さらに、外部リンクからのオートプレイ、コンテンツ視聴完了後のおすすめコンテンツ表示など、UI・UXの改善も積極的に行われています。大場氏は、「TVerのコンテンツは放送局の皆さまが制作したもの。TVerの役割は新デバイスへの対応やUI・UX改善を行うなどしてテクノロジーの力で広告在庫を増やすことだと考えている」と強調しました。

続いてradikoのユーザー獲得策について、池田氏は「放送局との連携が必須」とコメント。radikoとビデオリサーチが毎年実施しているアンケートの結果によると、ラジオ番組の認知経路は「番組出演者・関係者のSNSの投稿」が20.7%で1位となっています。最近でもFM802の番組に藤井風がゲスト出演した際、それをradikoユーザーが拡散したことで大きくユーザー数を伸ばした事例を紹介。池田氏は、シェアラジコ機能などを活用し、番組のパーソナリティやゲストにSNSで拡散してもらうことがユーザー獲得において重要であり、シェア拡散がされやすい状況を放送局と共に作るようにしていると述べました。

またradikoの具体的な取り組みとしてオリジナルチャンネルも紹介。実際に多くの新規ユーザーを獲得した事例として、ABCラジオとともに2024年から始めた、夏の甲子園の全試合を無料中継する「オーディオ高校野球」、2025年5月に開催された「MUSIC AWARDS JAPAN」のライブ配信を挙げました。

さらにradikoは、2025年7月、スマートフォンを車載カーナビなどに接続できる機能「Apple CarPlay」と「Android Auto」にも対応を開始。スマートフォンなどで操作することなく、対応車載機のモニターでradikoを操作することが可能になりました。池田氏は、山間部やトンネルでもクリアに聞こえることも利点として挙げ、「車の中でradikoを利用しているユーザーは多く、ドライバーとラジオの親和性は高い。今後も全国のドライバーに訴求していきたい」と展望を語りました。

株式会社radiko 代表取締役社長 池田 卓生 氏

ユーザー目標数は? ユーザーの特徴から探る、今後の可能性

ユーザー獲得に向けた取り組みを踏まえ、松尾は「ユーザー数の目標値」を質問しました。
これに対し池田氏は、「現在radikoの月間ユーザー数は850万人のため、今後まずは1000万人、ゆくゆくは2000万人にしていきたい」と目標を掲げました。また、この目標値については、放送局とradikoが一緒に番組やパーソナリティ、地域の魅力を最大限に発信していくことで初めて実現できる数字として、「『Unity』をキーワードに、全国の放送局と一体となって進めていきたい」と述べました。

ラジコのサービス規模とリスナーの基本属性

さらに池田氏は都道府県別の「radiko含有率」についても解説。radiko含有率とは、人口に対してどのくらいの数の人がradikoを使っているかを示した数値を指し、2024年のデータでは東京で12.53%です。全国平均は4.8%で、図表上で赤いグラフの都道府県が平均値を下回っています。
池田氏はまだまだ伸びしろがあると捉え、「全国の放送局が20%ずつ月間ユーザー数を増やせば、ユーザー数1000万人というKPI達成は余裕で見えてくる」と意欲を見せました。

radiko含有率(月間ユーザー数÷エリア内人口)47都道府県 平均4.8%

続いて大場氏が、TVerのMUB(月間ユニークブラウザ数)は4120万で、「今後は約7500万人のユーザー数を誇るYouTubeに追いつき、追い越したい」と述べました。
大場氏によると、TVerの利用状況は、居住地域や男女比、年齢などによる大きな偏りはないといいます。幅広く使われている一方で、TVerの認知率は73.3%もありながら、無料で見られることを知っているのは51%にとどまっているという課題を紹介。大場氏はそのギャップを伸びしろと捉えており、SNSからの流入を促すなど、"TVerを有料サービスだと認識している層"に対して根気強く接触の機会を増やす努力をすると話しました。

サービス概要 現在、常時約800番組をすべて無料でパソコン・スマートフォン・タブレット・テレビに配信

radikoとTVerが取り組む、広告価値向上に向けたアクション

続いての話題は、配信サービスが広告主に対してどのような価値を提供できるのかを松尾から問いかけました。
池田氏はまずradikoの広告配信メニュー「radiko audio Ad」を紹介。これは、放送局から指定されたCM枠を、radikoのターゲティングされたCMで上書きするというメニューです。ターゲティングできるところがradiko広告の特徴であり、強みとなっています。

さらに池田氏は、昨今広告の考え方が「枠から人」へシフトする中で、radikoでも独自のデータを活用したターゲティング配信を行っていると説明。中でも特にクライアント層が拡大しているのが、位置情報を活用したターゲティングです。例えば「いま六本木でラジオを聞いている人に広告を配信する」など、位置情報必須のアプリならではの強みを活かしたターゲティング配信ができます。

池田氏は、企業が主催するイベントの認知拡大を目的に会場周辺の駅や沿線のradiko利用者を中心に広告配信したところ、実際にイベント認知が高まり、クライアントからも評価を得たという事例を紹介。さらに今後の構想として、タイムフリー再生時に動画広告も取り入れたいと意欲を見せました。

続いて大場氏は、TVerが「広告主や広告会社から出稿先として最初に選ばれるメディアになってきた」ことや、民間企業だけでなく官公庁など多様な業種から出稿されている点など、TVer広告の実態について説明。加えて、広告会社が直接広告出稿を行える「セルフサーブ機能」があることも強みとしてアピールしました。

また、動画広告市場が伸びていく中で、TVerが強みとして捉えているのは「放送局クオリティ」であると改めて強調。大場氏は放送法について説明しながら、公共性や健全な民主主義への貢献といった理念にもとづき、放送局が積み上げてきた信頼を今後も大事にしていくことこそが、広告単価の差別化にもつながると話しました。

(右から)株式会社TVer 代表取締役社長 大場 洋士 氏 株式会社radiko 代表取締役社長 池田 卓生 氏 株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニット プラットフォームアライアンス統括 松尾 剛

メディア業界の未来を担う、radikoとTVerが描く「Next STANDARD」

radiko、TVerの「Next STANDARD」として、テクノロジーを活用して広告在庫を増やすことや、データ整備、ターゲティング精度向上による広告価値向上が議論されてきた本セッション。
最後に、「Next STANDARD」により実現したい今後の売り上げ目標や展望について、2社に語っていただきました。
池田氏からは、radikoの2024年度の売り上げが前年比162.2%、今期2025年度は上期で前年比200%超えと急伸していることを紹介。ゆくゆくは広告売り上げ100億円を目指しているとし、「地上波と一体となったセールスを企画、仕組み化していくことが必要。放送局の担当者と話し合いながら取り組んでいけたら」と話しました。

TVer大場氏は「日本の広告費」の調査結果から、2024年のテレビメディア関連動画広告費が653億円であったことを説明。早期に1000億、2000億を目指し、その先の3000億、4000億にも挑戦したいと意欲を示しました。

TVer広告 2024年のテレビメディア関連動画広告費は653億円 TVer広告は2022年度から2024年度、売上・キャンペーン数などが右肩上がり

そして最後のメッセージとして、池田氏は「radikoは2025年12月にサービス開始から15周年を迎える。今後も認知拡大に取り組み、生活の中に取り込む音声体験を全国の放送局の皆さんと一緒に推進させていきたい」と表明。大場氏は、「TVerも2025年10月でサービス開始から10年。放送局が手掛けるクオリティの高いコンテンツを武器に、TVerではテクノロジーでできることをやっていきたい。市場成長を圧倒的に上回るような成長を目指す」と決意を述べました。

またビデオリサーチに期待していることとして、池田氏は「リスナーの熱量の可視化」、大場氏は暗黙知になってしまっているという「放送局クオリティによるコンテンツ内の広告価値の可視化」と話しました。松尾は、両者の期待に応えるためにも「放送局、広告主、広告会社の皆さんとともに業界の新しいスタンダードを作っていきたい」と話し、セッションを締めくくりました。

株式会社TVer 代表取締役社長 大場 洋士 氏 株式会社radiko 代表取締役社長 池田 卓生 氏 株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニット プラットフォームアライアンス統括 松尾 剛

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