【奥律哉の奥が深いメディアの話】 25年間の時系列データから生活者のメディア利用行動変化を読み解く

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【奥律哉の奥が深いメディアの話】 25年間の時系列データから生活者のメディア利用行動変化を読み解く

過去25年間のメディアトレンドを振り返る

近年のメディア環境の変化は過去に例を見ないほど目まぐるしい。マスメディアが唯一の発信機能を有した時代から、インターネットの普及によって、だれもが情報を発信できる手段を持つ時代へと変わった。

今後の情報空間を見通すにあたって、2001年から2025年までの過去25年間のメディア環境を振り返ってみたい。最近社会人として働き始めた人にとっては、生まれる前の話に相当する昔の話だ。

振り返るデータのベースは当社ビデオリサーチのMCR/exデータである。それに加えて視聴デバイス関連の普及率を内閣府の消費動向調査から抜粋し、電通が毎年発表している日本の広告費を随時参照しながら、進めたいと思う。これら3つのデータは、当該期間のデータを時系列データとして保有している。ビッグデータ全盛の今日においても、トレンドを分析するには時系列データは貴重な存在だ。振り返る期間を2001年からにしたのは、iモードのスタートが1999年、カメラ付き携帯電話の発売が2000年であり、今年2025年までの四半世紀=25年でキリが良いと判断したからである。

MCR/exデータから読み取れるメディア利用行動の変化とともに、各年の業界の出来事を確認し、それに伴って生活者がどのように変化してきたのかをトレースすることが、理解の早道であり、今後の動静予測の参考になると考えた。

25年間の自宅内メディア接触時間量の推移

【図1】自宅内メディア接触時間量の推移(2001年~2025年)

このグラフは、今回対象にする2001年から2025年までの25年間の、自宅内メディア接触時間の時系列データである。ビデオリサーチのMCR/ex(東京50㎞圏、個人全体、週平均)をもとにグラフ化した。

すべてのメディアをニュートラルに俯瞰し、テレビやラジオメディアが、インターネットやスマホデバイスの普及拡大によってどのように変化してきたのか、それぞれの視聴時間量のトレンドを確認する。グラフは左側から、テレビ(紺)・録画再生(青)・テレビ動画(水色)・ラジオ(緑)・新聞(黄緑)・雑誌(黄)・ネット【PC・タブレット】(橙)・ゲーム【PC・タブレット】(赤)、ネット【モバイル】(桃)・ゲーム【モバイル】(紫)・ゲーム計【2014年のみ】(灰)の接触時間量を示している。2020年はコロナ禍の影響を受けているため時系列のトレンドから外れた動きをしているが、全体的なトレンドは以下の通りだ。

過去25年間、メディア接触時間のトップはテレビ~放送から録画再生、ネット配信へ~

過去25年間、メディア接触時間のトップはテレビ(【図1】:紺)であることは変わらない。しかし大きなトレンドとして、年々その時間量は減少傾向を示している。MCR/exデータでのテレビ接触時間量のピークはいつ頃だったのか?大筋のトレンドを捕まえるため、200分を超える調査年を確認してみると、2002年(206.0分)、2003年(203.7分)、2004年(208.3分)、2008年(209.7分)、2009年(210.2分)、2012年(201.3分)と6回を数える。

対応する利用デバイスの状況を、内閣府の消費動向調査から確認する。同データによるカラーテレビの100世帯当たり普及台数(二人以上の世帯)は、2001年~2012年までの12年間は連続して230台を超えている。つまり一世帯当たり2.3台以上のテレビが家にあるということである。このデータのピークは2005年の252.0台である。言い換えると一世帯に約2.5台のテレビが各家庭に普及していた。

この時期は、地デジ化に伴うアナログテレビの流通店頭での買い替え促進のタイミングと重なる。2003年からスタートした地上デジタル放送は、2011年のアナログ放送停波によって完全移行した(東日本大震災での被災3県は2012年)。 各家庭ではアナログテレビの買い替えが行われ、ブラウン管のテレビから薄型の液晶テレビへの買い替えという、別の意味での新しいテレビが各家庭に普及していった時期である。

また民放のテレビ広告ビジネスも活況を呈していた時期でもある。電通の発表による日本の広告費において、地上波テレビ広告費が2兆円を超える暦年は、1997年(20,079億円)、2000年(20,793億円)、2001年(20,681億円)、2004年(20,436億円)、2005年(20,411億円)、2006年(20,161億円)と6回ある。

以上をざっくりとまとめると、アナログ停波以前のテレビの視聴環境は、一世帯あたり約2.3台のテレビがあり、一人・一日当たり200分以上テレビを楽しみ、その視聴環境をベースに年間2兆円規模の地上波広告ビジネスが成立していたことになる。

HDD/DVDレコーダーの登場と普及

2012年以降は、カラーテレビの100世帯当たり普及台数(二人以上の世帯)は漸減傾向に入る。これは前述の地デジ化に伴うアナログ放送の停波による影響が大きい。各家庭ではリビングルームに設置されるメインテレビが地デジ化対応としてリプレースされたが、それ以外の居室に置かれていたサブテレビは積極的にはリプレースされなかったからである。そのため結果的に世帯内テレビ台数は減少した。

それを補うように並行して普及・拡大したのがHDD/DVDレコーダーである(【図1】では録画再生(青))。VTR(ビデオテープレコーダー)に代わってHDD/DVDレコーダーが普及し始め、利用者は簡便に番組録画ができるようになった。その背景には電子番組ガイド(EPG)の存在がある。消費動向調査では、光ディスクプレーヤー・レコーダー全体(二人以上世帯)の普及率は、統計の出始めた2002年の19.3%から2013年の77.7%まで急拡大している。

VTR時代は特定の番組を予約するには結構な手間がかかった。手元のリモコンで日付:放送局:開始時間:終了時間:録画モード(2時間テープであればそのまま2時間録画するか、長時間録画モードかを選択)を指定する必要があった。当時はユーザー自身が主に新聞のラテ欄からこれらの情報を読み取って入力していた(その後、ジェムスターコード(Gコード)がラテ欄に記載されるようになり一部省力化が実現した)。今振り返ると途方もなく面倒である。しかも録画中に番組の最初から見ること(今でいうところのスタートオーバー機能)はできなかった。録画したテープには、自らが番組名メモを残さないと後で何の番組が録画されているテープなのか皆目見当がつかない。間違えて貴重な録画テープに上書きし後悔した経験は誰もが持っている。

現在のように放送波で常に更新される電子番組ガイド(EPG)とHDDを記録媒体とするシステムは、この不便を一掃した。チューナーが複数搭載されたHDD/DVDレコーダーが当たり前になり、ユーザーは同時間帯に放送される番組を複数録画でき、さらにテレビ本体で別の番組を楽しむことができた。サブテレビの減少は、HDD/DVDレコーダーの普及によるタイムシフト視聴の拡大のトレンドともリンクしている。

その後、2015年にはTVerがサービスを開始 し、一部の番組についてはTVerでもタイムシフト視聴が可能に。自らが録画をしなくても、キャッチアップサービスで番組を観ることができる時代となった。MCR/exデータでは録画再生は2014年の26.3分をピークに以降20分台で推移し、直近の2025年データでは18.1分まで減少している。ちなみに、前述した光ディスクプレーヤー・レコーダー全体(二人以上世帯)の普及率は2025年には59.1%まで減少している。

コネクテッドテレビの普及拡大へ

なお、2018年から集計を始めたテレビ動画(テレビ経由のネット動画視聴)(【図1】:水色)は、テレビのネット接続率の拡大に伴って、2018年には1.9分、2019年には3.1分、2020年にはコロナ禍による外出自粛に伴い8.6分と急拡大した。その後も拡大トレンドは継続し、直近の2025年データでは18.3分まで増加している。いまやテレビスクリーンは、放送と配信の双方による動画を視聴するデバイスとして、その役割を維持している。ビデオリサーチのSTREAMOデータによる関東地区のテレビ端末のネット結線率は現在70%を超え、 今後も拡大が予想される。

ラジオからradikoへ

他方ラジオ(【図1】:緑)に注目してみると、2000年初頭は20分弱の接触時間量があったが年々減少している。ラジオはテレビとは媒体特性が異なり、行為者率は低いが行為者の接触時間が長い点が特徴だ。言い換えると、ラジオを聴く人は少ないが、聴いている人はヘビーリスナーで聴取時間が長いということだ。2010年にはradikoがサービスを開始し、以降10年間のスコアに注目すると、ラジオの接触時間は下げ止まり感があり、radikoによる聴取拡大効果も含まれていると推測できる。さらにコロナ禍の外出自粛により2020年のラジオ接触時間は8.9分と、前年6.0分から飛躍的にその時間量を増大させ、その後は減少傾向に一定の歯止めがかかっている状況である。

インターネットはPCからスマホへ

最後にインターネットに注目して25年の動静を確認する。ネット(PC・タブレット)(【図1】:橙)は2001年から順調に利用時間を増やしている。その背景にはADSLによる月額定額・常時接続の普及がある。その後は2008年の33.1分をピークに、コロナ禍直前の2019年まで30分程度を維持している。一方ネット(モバイル)(【図1】:桃)は、2008年には10分の大台を超え、その後時間量を着実に増やし、コロナ禍直前の2019年には45.3分まで拡大した。ちなみに、iPhoneの発売は、ソフトバンク 2008年、au 2011年、NTTドコモ 2013年であったことを付記しておきたい。

ネット利用時のデバイスとして、モバイルがPC・タブレットの時間量を超えたのは2018年である(ネット(モバイル)38.1分、ネット(PC・タブレット)30.0分)。参考として、当時の内閣府の消費動向調査から総世帯ベースでのスマホとPCの世帯普及率を確認すると、スマホは2018年:67.4%→2019年:70.8%、PCは2018年:69.2%→2019年:67.2%と、スマホがPC普及率を上回っている。利用時間量の逆転は、スマホがPCに替わるデバイスとして確固たるポジションを獲得したタイミングと前後している。

そしてコロナ禍の2020年にはネット(PC・タブレット)は44.9分、ネット(モバイル)は75.9分にも上った。インターネットの利用場所が屋外ではなく屋内である傾向は過去データからも明確であったが、コロナ禍の外出自粛による休校(リモート授業)・在宅勤務という生活行動の変化が、メディア行動に大きく影響を与える結果となった。コロナ禍後、ネット(PC・タブレット)は40分前後をキープし、ネット(モバイル)は拡大トレンドのまま2025年には78.7分まで増加している。

メディア利用行動とデバイスの普及率には深い関係がある

ここまで見てきたように、生活者のメディア利用行動と各デバイスの普及率には相関関係が認められる。しかし、どちらが原因でどちらが結果なのか?つまり因果関係まではこのデータだけでは語れない。紙幅の関係で概要を記載するにとどめたが、インターネットの普及・高速化・低廉化によってさまざまなサービスが生まれ、人々の日常使いメディアが著しく変化した。何が従来メディアの代替手段となり、補完手段となるのか、またそこには広告ビジネスの余地があるのかなど、25年の時系列データの変遷から生活者視点のデータを読み込むことによって学べることは多い。

【出典】
・内閣府「消費動向調査」 https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html
・電通「日本の広告費」 https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/index.html