意思決定を変えるAI×データ活用の最前線【VR FORUM 2025】
[登壇者](右から)
・グーグル・クラウド・ジャパン合同会社執行役員 テクノロジー部門 兼 事業開発本部
寳野 雄太氏
・株式会社ビデオリサーチ 執行役員 CTO システムソリューションユニットマネージャー
木塚 了敬
AIによる業務革新や、生成AI・AIエージェントとデータを掛け合わせることによって、意思決定のスピードと質はどう変わっていくのか。グーグル・クラウド・ジャパンの寳野雄太(ほうのゆうた)氏をお招きし、データとAIの関係性、そしてメディア業界におけるAI活用の可能性について語りました。
コンテンツ生成から、データ分析まで。メディア×生成AI活用のトレンド
"世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること"を使命に掲げ、様々なサービスを展開しているGoogle社。「中でもGoogle Cloud は、法人のみなさまにGoogleのテクノロジーとノウハウをより安全なかたちでご活用いただけるように立ち上がった組織だ」と、まずは寳野氏がその役割を説明しました。
続けて「メディア業界におけるAI活用」に焦点を当て、二つのトレンドを紹介しました。
一つは、「AIによるメディア生成機能が、ビジネスでも十分活用できるほどプロフェッショナルユースになってきている」という点です。整合性を保った画像の生成・編集や、画像を元にした動画生成が簡単に実現できるようになったと説明しました。具体例として寳野氏は、Google Cloud が提供する動画生成モデルである「Veo3」を取り上げ、VR FORUM 2025の「Next STANDARD」というテーマをベースに制作した動画を会場スクリーンに投影。その性能の高さを示し、ビジネスでの実用性が高まっていると強調しました。
もう一つ、大きなトレンドとして言及したのが「定性的な口コミなどのデータ分析ができるようになった」点についてです。これまで目検で見てきたような番組の感想などの定性的なデータを、AIを活用することによって全数で分析することが可能になり、結果、定性的なデータの価値が大きく上がっていると述べました。
「従業員とAIエージェントの協調」―Google Cloudが考えるAIの未来像
続く話題は、Google Cloudの考える「AIの未来像」について。寳野氏は「従業員とAIエージェントが協調すること。それが未来の在り方だ」と、見解を示しました。
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マーケティング領域にも広がる、PDCAサイクルの加速をもたらすAIエージェント
AIエージェントとは、ユーザーの行っていたタスクの一部あるいはすべてを代行し、自立的に業務を遂行するソフトウェアシステムのこと。すでに多様な分野で活用されており、寳野氏は一例として、Googleが2025年5月に発表した Google検索の「AIモード」による新しいショッピング体験を挙げました。「AIモード」にはエージェント機能が搭載されており、欲しい商品を伝えるだけで、商品の検索からECサイトでの購入までをAIが自立的に実行してくれるといいます。
加えて寳野氏は、「マーケティング領域でのAIエージェント活用の有用性」に言及。「圧倒的なPDCAサイクルの加速が起きる」と強調しました。
これまで、キャンペーン実施に伴うリサーチ、計画立案、クリエイティブ制作、効果測定といった一連のプロセスは人間が担ってきました。寳野氏は、こうした一連のプロセスにAIエージェントが介入することで、各工程を自立的に実行し、仮説検証を高速で進められるようになると説明。「人間は判断のみに専念できるため、結果として質の高いマーケティングにつなげることができる」と、AIエージェントのもたらすインパクトを改めて示しました。
活用のポイントは、「データとの連携」と「人間のノウハウを与えること」
こうしたAIエージェントとの協働を実現するためには何が必要なのか。寳野氏は、ポイントを二つ提示しました。
一つは、「データとの連携」です。「AIエージェントをうまく活用するには、『メタデータ』の整備が重要」と寳野氏。メタデータとは、データの属性や特徴を表す付随的な情報のこと。例えば、ある商品がどの層に支持されているのか、過去にどのような層に購入されてきたのかといった情報がなければ、人間も適切なキャンペーン計画を立てることはできません。このような人間の意思決定と同様、AIもデータとの連携が大きなポイントになるといいます。
二つめのポイントとして挙げたのが、「生成AIに人間のノウハウを与える」こと。企業で培われたノウハウやナレッジといった暗黙知がAIエージェントに与えることで形式知化され、より効果的に活用できると述べました。
「暗黙知」を「形式知」へ。ビデオリサーチが推進するAI活用
セッション中盤では、木塚が「ビデオリサーチにおける生成AI活用の取り組み」について紹介。「現在ビデオリサーチでは、扱うデータや課題に応じて、インフラ環境や生成AIの活用及びデータの提供方法を柔軟に選択できる体制を整えている」と説明しました。
では、なぜビデオリサーチが生成AI活用に取り組むのか。その理由について木塚は、「意思決定を加速させるには、これまで蓄積されてきた調査や分析のノウハウといった『暗黙知』を、多くの人が同一条件で判断できるよう『形式知』に変えていくことが重要。生成AIに学習させることや、生成AIを通じて判断する過程で『形式知化』が実現される」と、考えを示しました。
事例① 調査品質を維持・継承するための「調査設計支援LLM」
続けて木塚は、ビデオリサーチでの生成AIの活用事例を三つ紹介しました。
一つめの事例として取り上げたのは、「調査設計業務における生成AIの活用」です。調査設計では、お客様が知りたい情報を的確に引き出すために、どのような質問をどのような形式で聞けばいいかを検討していきます。「この業務には市場理解や経験値が求められるため、これまで『暗黙知』として個人が継承していた部分が大きかった」と木塚。こうした社内の『暗黙知』をAIに取り込み、学習させて『形式知化』することで、結果的に新人育成などにも活用され、知識・技術の継承にもつながっているといいます。
事例② テレビ番組分析レポートの自動生成
二つめの事例として提示したのが、「生成AIによるテレビ番組の分析の自動化」です。ビデオリサーチでは、2024年度からテレビ番組のデータを分析する業務に生成AIを活用しています。
しかし、「取り組みを始めるにあたっては課題もあった」と、当時を振り返る木塚。生成AIは数値を扱うことを苦手としていることから、番組を分析する上で非常に重要な要素である「視聴率」の分析には一工夫が必要だったと語ります。試行錯誤の上に、Google CloudのBIツールである「Looker」上に視聴率や番組メタ情報、天気、SNSデータなど多様なデータを表示し、それらすべてを学習・分析させることで、数値を含む分析コメントをAIが自動生成できるようになったといいます。
「全番組を毎日分析することはコストと時間がかかるが、AI活用により簡易化・迅速化できれば放送局の皆さまのお役に立てるはずだ」と述べました。
事例③ 顧客ニーズに対応する自立型エージェント
三つめの事例は、「自立型エージェントの開発」についてです。これまでのビデオリサーチでは、データや分析結果をUIやダッシュボードなどの形で提供し、そのデータをお客さま(人)が判断するケースが大半でした。しかし近年はお客様各社にAIエージェントが導入され始め、「データをAIと協働して判断したい」「AIによるデータ提供に変えてほしい」という要望が増えていると説明。こうしたニーズに応えるために、番組分析を行う自立型エージェントの開発を進めています。
木塚は、実際の実行状況を動画と共に解説。「情報収集エージェント、分析エージェントなど複数のエージェントを活用し、番組の特定からデータ収集、分析、分析結果のチェックまでをエージェント間で分担・連携させることで、従来は人が担っていた作業を効率化できる」と述べました。また、将来的には、Google Cloudが提供するエージェント構築基盤である「Agent Space」を通し、ビデオリサーチが開発したエージェントの提供はもちろんのこと、お客さま自身のエージェントと連携させるなど、より柔軟な分析環境の構築を目指していると語りました。
木塚の発表を受けて、寳野氏が「人間とAIの協調は大きなポイント」とコメント。「AIは一度フィードバックを受けると成長する。一方、AIと協働することで新入社員など人間側も最初の成長を加速させることができる」と、その意義を説明しました。
データとAIの統合活用には「データ管理基盤」が重要
こうした取り組みをふまえて木塚は、「生成AIの活用が進むとデータの正しさが重要になる。その中でビデオリサーチに求められるのは、生成AIが理解・判断しやすい形にデータを整備することなのではないか」と述べました。加えて、データ提供方法もお客さまのニーズに応え、多様な形式を選べる環境を準備していきたいと展望を語りました。
ここで寳野氏から木塚へ、「AI活用によって、データ分析にどのような広がりが生まれているのか」と問いかけがありました。
木塚は、XやInstagramといったSNSデータを挙げ、文字だけでなく画像を含めた解析の自由度が向上していると回答。また、CMや番組視聴によって実際に人が動いたのかなど、人流を含む位置情報データとの連携もしやすくなったといいます。
SNSデータに関して寳野氏は、「文字だけで見れば盛り上がっている話題も、画像やコンテキストを加えて見てみたら炎上だったという例もある。そうした文脈を含め、AIが人間のようにデータを理解できるようになったことは大きなテクノロジーの変化だ」と指摘。発言を受けて木塚も「人間の判断にどう近づけていくのか、そのためにどのようなデータ整備をすべきかが大きなテーマだ」と語りました。
意思決定のNext STANDARD。キーワードは「形式知」と「AIエージェント」
セッション終盤は、両者がそれぞれの立場から今後の展望とキーワードを提示しました。
木塚は、改めて「形式知」というキーワードを提示。生成AIを活用することで、従来人間が行っていたデータの読み解きや判断のプロセスを効率化できると説明しました。また、「過去の調査結果や分析過程をAIに学習させることで『形式知』化され、財産として未来に積みあがっていく。皆さまとそんな世界をつくりたい」と、期待を示しました。
一方、寳野氏が提示したキーワードは、「AIエージェント」。「多様な専門性を持ったAIエージェントを活用すれば、さらなるPDCAサイクルの加速につながる。これは本当に大きな変化だ」と、改めてその意義を説明しました。加えて「これからも皆さまの業務改革をお手伝いしていきたい」と述べました。
最後に木塚は、ビデオリサーチとGoogle Cloudのパートナーシップについて言及。「両社が連携し、データマネジメント領域における皆さまのベストパートナーを目指していく」と意気込みを語りました。対して寳野氏も「Google Cloudは、エージェント同士が連携するプラットフォームを提供する立場。ボタンを一つ押せばビデオリサーチのエージェントがすぐ活用できるような未来を一緒に作っていきたい」と協業の意欲を示し、セッションを締めくくりました。
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