「全国ローカルラジオ聴取状況レポート」発刊! J-RADIOでみるラジオの現在地とこれから〜定着したIPサイマルラジオ、楽しみな V-LOW マルチメディア放送

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※本記事は2014年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

2014年日本の広告費(電通発表)において、ラジオ広告費は、前年比102.3%でプラス成長となりました。これはマス4媒体の中で見てもテレビメディアに次ぐ伸び率です。この数年、ラジオをめぐる環境は目まぐるしく変化しており、いまもなお過渡期にあります。本号ではラジオの変化と現状、そしてこれからについて、当社の「J-RADIO」(全国ローカルラジオ聴取状況レポート)のデータも交えながらお伝えします。

2010年代のここまでに起きた最も大きな変化はIPサイマルラジオの定着です。これまで、「ラジオチューナー」という専門機能を持つハードでしか受信できなかったものが、インターネット経由でも送信されることによりその制約がなくなり、アクセシビリティが向上しました。2010年から実用化試験配信を始めたradiko.jpは5年が経過し、民放ラジオ101局のうち74局(2015年4月現在)がこのプラットフォームを通じて、地上波ラジオ放送をCMも含めそのまま配信しています。また昨年春にはこれまでの放送エリアに準じた地域での配信に加えて、有料のエリアフリーサービス「radiko.jp プレミアム」も始まりました。これにより、全国のラジオが1つのアプリで聞けるようになり、擬似的な「多チャンネル環境」が生まれました。

インターネットを通じた環境変化がある一方で、従来の放送波でも大きな変化が起きはじめています。それが、首都圏でも今年度の秋から冬にかけて開始される予定の「ワイドFM」(FM補完放送)です。ワイドFM とは、地上波アナログテレビ放送終了後、空き帯域となっていた90〜108MHzのうち90〜95MHzの帯域にAM局が中継局を設置する、というものです。これによりAM波が受信困難となっていた環境・地域でもFM波経由でのラジオ聴取が可能となるほか、これまでFMチューナーしか搭載されていなかったiPodなどの受信機でもAM局の番組聴取が可能になります。生活者からすると、これまで周波数×帯域で複雑なチャネル構成となっていたものが、1本化されるメリットもあります。

そして、今後起きるもうひとつの変化は99〜108MHzの帯域が割り当てられた、地方ブロック向けマルチメディア放送、いわゆる「V-LOW マルチメディア放送」です。現在、FM 各局を中心に放送開始への準備が進められていますが、「マルチメディア放送」という名前が示すように、音声だけではない幅広いデジタル放送が計画されています。地デジ化以降のVHF帯域を利用したデジタル放送としては、既に全国型の携帯端末向けマルチメディア放送(NOTTV)がありますが、V-LOWではブロック単位での放送が行われる点が大きな違いです。この仕組みを活かした災害時のインフラとしての活用も検討されています。

このように変化の只中にあるラジオですが、データで見るとどのような状況にあるのか。ここからは当社が4月にリリースした「J-RADIO」の最新データを中心に、全国のラジオの現状を概観します。

まず、使用するデータについて簡単にご説明します。「J-RADIO」は、「個人聴取率」「リスナープロフィール」データに次ぐ、ビデオリサーチ第3のラジオデータです。他の2つのデータが、ラジオの聴取を細分化することに力点を置いているのに対し、「J-RADIO」はシンプルな聴取状況調査を全国全域で同時実施し、同じ条件でラジオ聴取状況を見ることに力点をおいています。各県各局の聴取状況を概観し、豊富なプロフィールデータと共にラジオの全体像を把握することができます【図表1】。

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「J-RADIO」では各県ごとに各曜日・各局の「日頃」のラジオ聴取状況を60分単位で記入する形で調査を行っています(個人聴取率調査は15分単位)。 これを表現するのが「ラジオ聴取習慣率」という指標です。この指標を用いることで、1時間当たりの平均リスナー数を把握することができます。

ラジオ聴取習慣率= 局別・60 分単位で集計した「日頃ラジオを聞く人」の割合

聴取習慣率で見る全国のラジオ聴取

●全国リスナー 614 万人 (毎時平均)

「J-RADIO」の聴取習慣率データから算出すると、 全国のラジオリスナーは毎時平均「614万人」(男女15〜69歳 週平均6-24時)います。これは、月間でも、累計でもなく、日頃から接触している生活者数である、ということが大きなポイントです。朝から晩まで、毎時平均 614万人が日本のどこかでラジオを聞いているのです。これは横浜市・さいたま市・千葉市の合計人口よりも多い人口規模です。

この毎時の聴取人口を年代別に見たのが【図表2】です。10代は人口も少なく5歳分だけのデータとなりますので10万人を切っていますが、10代の聴取のピークとなっている朝の7時台や22時台では全国で20万人程度のリスナーが日頃からラジオを聞いています。他の年代を見ると、60代が最も多くなってはいますが、30代以上ではいずれの年代でも毎時平均100万人以上に聞かれています。

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●「カーラジオ・カーナビ」利用が断トツ

では、その全国のラジオリスナーはどのようなラジオの聞き方をしているのでしょうか。「ラジオを聞くときに使うことがある端末」についての調査データから、全国の聴取スタイルを見たのが【図表3】です。

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●「カーラジオ・カーナビ」利用が断トツ

では、その全国のラジオリスナーはどのようなラジオの聞き方をしているのでしょうか。「ラジオを聞くときに使うことがある端末」についての調査データから、全国の聴取スタイルを見たのが【図表3】です。【図表3】ラジオを聞く際に利用することがある機器用を見てみると、「据え置き型」「携帯型」では、2ジャンル以上の端末を利用している人の方が多く、カーラジオとは逆に利用シーンの広がりが大きくなっていました。

これらの端末利用の全体像をまとめたのが【図表4】です。全体で見ると、「2ジャンル以上の端末」を利用している人、「カーラジオ・カーナビのみ」を利用している人、「カーラジオ以外のグループの端末のみ」を利用している人が、シェアを3つに分ける形になっています。

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ここには分数の要素は加味されませんので聴取総量の中の割合とは異なりますが、ひと口にラジオリスナーといっても、全く異なる聴取経路で聞いている人が共存し、決してカーラジオだけではない、ラジオの楽しみ方が全国に根付いていることもわかります。

県別ラジオ聴取

●ラジオが力をもつ沖縄県

ここまで全国のラジオを見てきましたが、県別に展開するとどのようになっているのでしょうか。各県別の平均聴取習慣率と推定聴取人口をそれぞれで日本地図にプロットしてみたのが【図表5】です。「聴取習慣率」で見ると、最も聞かれているのは沖縄県の10.5%(週平均 6-24 時)。よく聞かれている県は東北と九州という南北に分かれており、岩手・宮城・ 宮崎・北海道が上位となっていました。その一方、聴取習慣率と各県の人口とを掛け合わせて「推定聴取人口」を算出すると、人口の多い東京都が最も多く52万人、神奈川県、大阪府、埼玉県、愛知県と大都市部が上位にならんできます。聴取習慣率で 見た各県の聴取のランキングで5位の北海道は、 人口でも第6 位に入っており、広いエリアを効率よくカバーする放送の強みが生きているバランスの良いエリアだといえます。

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●地元の情報がわかるラジオ

ラジオを聞いている人のボリュームが判ったところで、今度はラジオ聴取がどのような効果や行動に結びついているのか、最近1年間にラジオを聞いて行った行動を22の切り口で調査したデータから見ていきましょう。ラジオがどの県でどのように人を動かしたのか、各項目の1位の都道府県をいくつかピックアップします【図表6】。

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全国全県の全項目の中で最も出現率が高かったのは、「ラジオで市役所・県庁などの広報番組・CMを聞いて、地元の情報を知った」で全国1位になった沖縄県のスコアでした。同様の項目として「地元の催し・イベントに行った」「観光地・レジャー施設に行った」という項目では岩手県が1位に入っており、ローカルエリアで地元に根ざしたメディアとしてのラジオ像が見えてきます。また沖縄県は「日頃聞くラジオ番組を提供しているスポンサー企業に対して、親しみがわいた」でも1位となっており、この県では到達量でも、広告メディアとしての到達者の質としてもラジオが力を持っていることが分かります。

逆に都市部が1位に入っていたのが、ラジオを通じた商品・サービスの紹介全般についての項目です。「ラジオCMを聞いて、商品・サービスの内容をインターネットなどで調べた」では東京都が、「パーソナリティ・DJ が紹介した商品・サービスの内容をインターネットなどで調べた」では千葉県が、「ラジオ番組でパーソナリティ・DJが紹介した商品・サービスを、利用したいと思った」では埼玉県がそれぞれ1位となっていました。聴取習慣率ではローカルエリアほど高くない都心部ですが、リスナーベースで見るとパーソナリティ・DJとリスナーとの関係性やCMを通じた広告効果が全国的に見ても高いことが分かります。

ラジオにとってのキーポイントは「車」

さて、ここまで「J-RADIO」のデータを用いて全 国と各県のラジオリスナーの人口ボリューム、利用端末、各県の聴取量とラジオ聴取の効果など、ラジオの現在をご覧頂きました。紹介しきれないデータも多数ありますが、ここからは筆者の見解も交えて、今後のラジオについて考えていきたいと思います。

今後を考えるにあたって今一度立ち返りたいのが、「ラジオの聴取機器について」です。全国でもっとも利用されるラジオ端末が「カーラジオ・カーナビ」であることを紹介しましたが、昨今のラジオにおける新たな動きと重ね合わせても、この「カーラジオ・カーナビ」は重要な意味を持ってきます。

●インターネットラジオ

あまり一般的な聴取行動ではないかもしれません が、私はradiko.jpプレミアムで受信した故郷のラジオ番組をBluetoothでスマホからカーラジオに飛ばして聞くことがあります。これが非常に快適で、遠出のドライブをするときも、気に入った番組やホリデースペシャルなど地域を気にすることなくクリアな音で聞き続けることができます。ラジオ大国のアメリカでは既に車載端末へのインターネットラジオの導入も進んでいますが、日本でも同様の環境が生まれれば、このようなラジオの聞き方も決して特殊なものではなくなるでしょう。IPラジオとカーラジオ聴取が一体化したとき、車内のオーディオ環境が劇的に変わり、ラジオにとって更なる伸びしろが生まれる可能性があります。

● V-LOW マルチメディア放送

新たに開始が計画されている「V-LOWマルチメディア放送」も車載端末向けのサービスをメニューのひとつとして想定しており、車との関係性が重要になってきます。こちらは「放送」ですので対応チュー ナーが搭載された端末があれば受信可能になります。これまでの FM放送よりも充実した広域の交通情報や、ドライブ中の地域情報、動画コンテンツなど、 デジタル放送の強みを活かしたサービスで車内環境をより快適にするためには、カーラジオ・カーナビが大きなポイントとなります。

●ワイドFM

AM 放送の番組を現在のFM波でも送信する「ワイドFM」は、「都市型の難聴対策に効果がある」と「災害時に強い」という点で、大規模災害時の情報インフラとしても期待されている放送です。前述のV-LOWマルチメディア放送も自治体の防災無線の代替放送を活用方法のひとつとして掲げています。この「災害とラジオ」という観点でも、車との関係性は極めて重要になります。なぜなら防災情報についての他メディアとの代替可能性を考えた時、「運転中のドライバー」こそラジオが最も必要不可欠になる人々だからです。今自分が向かっている先が安全な場所なのか、今起こっている災害がどの程度の規模なのか、ハンドルを握ったまま耳だけで判断しなければならないドライバーにとっては、この新たな放送が受信できるかどうかは死活問題です。「ワイドFM」の対応機種は続々と発売されており、既に100以上(ビックカメラ.com 15年4月時点の検索結果)の端末が販売されています。車載端末についても、取扱いメーカーが増えつつあり、標準搭載への道が徐々に見え始めました。防災という観点でも、車載端末がこうした新たな放送に対応することが、その放送制度を作った行政側の理念を具現化することにも繋がります。

このような3つの観点から、これからのラジオにとっても「車」という存在、「運転中」というシーンはキーポイントになってくると思われます。

CGなどの技術革新が日々進展する映像表現の世界と違い、ラジオは人の声と音楽、という従来変わらないスタイルで勝負してきました。ソフト面ではそれが今後も引き続きラジオならではの良さであり続けますが、ハード面では送信側受信側ともに今後の変化が媒体に大きな影響を及ぼすことが予想されます。左に挙げた「車」はその典型的な例ですが、送信側ではIPラジオでradiko.jpやインターネット独自のラジオサービスがどのように進化していくのか、受信側ではFMラジオチューナーがどのような端末と融合・拡大していくのか、これから先ラジオの在り方に大きな影響を及ぼしてくると考えられます。

形のない「音」のメディアであるからこそ、多様な生活者それぞれにとって手に取りやすい形に姿を変え根付いてきたラジオが、次はどのように変化するのか、今後も目が(耳が)離せません。

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