猛暑・酷暑は生活者をどのように変えていくのか?これからの生活者変化をひと研究所研究員が予想!
- この記事はこんな方にオススメ!
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- 猛暑・酷暑による生活者への影響に興味関心がある方
- これからの生活者の変化のヒントを探りたい方
はじめに ~猛暑・酷暑が当たり前の時代の生活者
今年もとうとう梅雨入りを迎え(※執筆時点・関東地方)、もうすぐまた暑い夏がやってきますね。近年「猛暑・酷暑」が話題の日本列島。ただ単に暑いだけでなく豪雨・雷雨・台風などの極端な気象現象を伴ったり、夏日の長期化などで、日々の生活にも多方面に影響を及ぼしています。
例えば、例年7月に開催されていた足立区の花火大会は、昨年は雷雨により中止になったことや熱中症のリスクを考慮し、今年は5月に早まりました(残念ながら今年はその日強風のために中止となってしまいましたが)。また、国の対策として一定の暑さ指数を超える場合、外出を控えることが推奨されるようになり、今年6月1日からは企業に対して職場における熱中症対策が義務化されました。昔は気温が低いと中止になっていた学校の水泳授業が、今は気温が高すぎて中止になることが増えています。プール開きを5月に早める学校がある一方で、筆者の子どもの通う学校では夏休み明けの9月からになりました。
イベントの開催時期が変わったり、太陽が出ている時間の外出が難しくなったり、私たちの夏の生活をだいぶ変えてきているこの猛暑。ただその変化をポジティブに捉えれば、私たちの生活に新しい商品やサービスのヒントが隠れているのではないかと、ひと研究所では考えました。そこで、猛暑・酷暑による生活者の変化について、近年の事象から研究員の仮説を交えて、「日々の生活」「社会・文化」「価値観」という3つの領域から予想をまとめます(図1)。
【参考】
足立区
「2年連続、足立の花火中止」(2025年6月2日)
厚生労働省
「職場における熱中症対策の強化について」
産経新聞
夏本番、プール中も熱中症リスク 5月に授業前倒しの学校も 専門家「陸より注意」(2024年7月18日)
①日々の生活の変化
衣・食・住
衣服・ファッション
猛暑に対応するため、機能性のある服やアイテムのニーズが増えています。例えば、日傘。今年も5月中旬くらいから街頭でちらほら見かけるようになりました。傘の市場はここ数年3~4%の伸び率とのことですが、それを支えているのが日傘・晴雨兼用の折り畳み傘だそうです。「日傘男子」という言葉も登場するなど、ジェンダーレスに市場が拡大しています。また、猛暑対策服といった商品も販売されるようなってきており、一部では人気でなかなか買えないという声もあるようです。そのほかに、中学校や高校の制服として、ポロシャツやハーフパンツを取り入れる学校も増えてきています。ビジネス現場ではクールビズが浸透していますが、いよいよ学校のような教育現場でも暑すぎる夏に合わせて変わってきていることがうかがえます。
衣料・ファッション業界では新たな素材の開発が進んでいると考えられますが、新たな技術が登場することで、今までの衣服やファッションの慣例や習慣が大きく変わることもありえそうです。また、生活者はそのような変化を受け入れるようになってきているように思われます。
このように「衣服・ファッション」の領域では、「新技術」×「変化を受け入れる生活者」よって、"暑さ対策"を理由にして、一昔前まででは考えられなかった服装や関連小物の変化が進んでいくのではないかと予想できます。
もしかするとクールビズがさらに進化して、職場での短パン・サンダル履きがビジネスカジュアルとして認められる日も近いかもしれません。
【参考】
東洋経済ONLINE
猛暑で日傘市場が沸騰! 5年で売り上げが2倍になった傘メーカーの独自路線とは? 起爆剤となったのは「日傘男子」の存在(2025年5月14日)
朝日新聞
広がる「ハーフパンツ×ポロシャツ」制服 猛暑対策としてじわり(2024年7月15日)
食事・食の安全
夏が近づくと、塩分と水分が補給できるドリンクやゼリー飲料、タブレット菓子がスーパーやコンビニの店頭に並ぶ様子をよくみかけます。そのほか、食材や料理のアピールポイントも、スタミナやエネルギー補給視点が増えてきます。このような"夏らしい"食事のニーズが高まる期間が、夏の長期化に伴い長くなると考えられます。
また、それと同時に暑さによる食中毒のリスクも高まり、対策が必要になります。日本社会はこれから高齢化がさらに進みますが、特に高齢者にとって食中毒は命にも関わりかねません。加えて、体力を消耗している暑い時期ですから、準備に時間がかからない手軽さというものも重要と言えます。
このように考えると、暑い夏に「快適」で「安全」で「きちんと栄養がとれる」食事を「手軽に」とりたいニーズがより一層高まると考えられます。
例えば最近、1食あたりに必要な栄養素を補える「完全栄養食」が増えていますが、夏により不足しがちな栄養素を補えたり、味やのど越しなど夏の特性に寄せた"夏仕様"の完全栄養食があると喜ぶ生活者は多いかもしれません。 (個人的には、主食・主菜・副菜がそろった「完全栄養食冷凍弁当・自然解凍OK」の登場を望みます。夏場の子どものお弁当に悩む保護者は多いと思われますので・・・)
【参考】
日清食品
「完全メシ」ブランドサイト
ベースフード株式会社
「BASE FOOD」公式サイト
住環境や住宅コスト、家具・家電・住宅用品
エアコンなしでは過ごせない夏ですが、気になるのは電気代です。政府は消費電力が増える夏の間、電気・ガス料金への補助を行うことを発表していますが、それでも物価高の現在、節約ニーズは高いと考えられます。
ここ数年定番化した冷感シーツやまくら、遮熱カーテンなど、機能性寝具や家具は今年も人気がありそうですが、国の制度として窓の断熱やエコキュートなどの高効率給湯器導入といったリフォーム支援の継続に伴い、これを利用する人も増えるかもしれません。
生活上の細かな用品から、省エネニーズも相まって住宅そのものへの暑さ対策へとさらに拡大してくことが予想できます。
【参考】
資源エネルギー庁
「電気・ガス料金支援」
国土交通省・経済産業省・環境省
「住宅省エネ2025キャンペーン」
健康
身体的健康
夏があまりに暑いと、屋外での運動やスポーツは健康を害するものになってしまいます。結果として、運動の総量が減ってしまい、慢性的な運動不足によって健康に問題が生じるということがマクロ視点では考えられます。
運動を日常的にする人でも、屋外での運動を屋内運動に切り替える、あるいは、暑さのピークの時間帯から時間をずらして運動をするということも増えていくと予想されます。「運動」をする機会の場所と時間が変わっていくとすると、その時間や場所に合ったサービスなどのソフト面、グッズ・ツールなどハード面のニーズも変化していくでしょう。例えば少ない運動時間でも、運動効率は同じレベルを保てるメニューやウェア、運動器具など、運動にも "タイパ"が求められるようになるかもしれません
精神的健康・メンタルヘルス
暑さを避けて家にこもることが増えると、それに伴い孤立感やストレスが増加する可能性があります。また、この状況により、ストレス発散の手段を求める需要が高まることが予測されます。
この現象は、コロナ禍の期間中に見られた傾向と類似しています。長時間にわたる在宅(巣ごもり)生活では、孤立感やストレス緩和へのニーズが高まります。コロナ禍の際は、対面コミュニケーションの代替えとしてオンラインコミュニケーションや音声通話によるニーズが増えました。猛暑による巣ごもりにも、同様に音声やテキストによるオンラインコミュニケーションに加え、現在はAIが発達し自然な対話ができるようになってきていることから、AIを話し相手にする人が増えていくかもしれません。
【参考】
Spotify
loveAudio June 2021「Z世代と音声メディア~若者の"耳"はマルチタスク?~」
②社会・文化の変化
社会生活
人間関係
前述しましたが、猛暑により外出が減少し、人と直接会う機会が減ることが予想できます。その代わり、コロナ禍で普及したオンラインによる人のつながりが改めて重要になってくることが考えられます。これは、実際に顔見知りの人であってもオンラインで交流する場合もあれば、完全にオンライン上だけの知り合いという場合もあると思われます。
コミュニティ
猛暑が続くと、ショッピングモールや図書館など、涼しい場所を求めてひとが集まる傾向が拡大するとみられます。これらは新たな交流拠点となり、新しいコミュニティの形成を促進する可能性があります。
それは「人間関係」で触れたオンライン環境も例外ではなく、オンライン上の新たな交流拠点による新たなコミュニティが生まれていくかもしれません。若年層ではゲームのプラットフォームやSNSがそのような場になってきていますが、より幅広い年代に広がっていくことが予想されます。
仕事・学校
「衣服・ファッション」の章でも述べましたが、熱中症対策が義務化されることで、学校や職場での服装が変わり、より涼しい服装が求められ、許容されるようになっていくのではないでしょうか。また、コロナ禍が明け出社を促す企業が増えていますが、コロナ禍で導入・普及したリモートワークやオンライン授業の仕組みを改めて利用し、通勤や通学の負担を軽減する動きが起きる可能性も十分考えらえます。夏が危険なほど暑くなってくるのであれば、改めてコロナ禍のように仕事や学校の「ハイブリッド化」が議論になる可能性があります。
行政・政治関与
猛暑・酷暑の対策ということが、市民から行政や政治への要望と結びついてくることが考えられます。また市民生活や市民の健康などを守るという大義名分にもなりやすい側面があります。 例えば選挙活動。炎天下の屋外での街頭演説は演説するほう・聞くほうどちらも危険であり、控える動きが進んでもおかしくありません。ショッピングモール等の屋内であったり、あるいはオンラインをベースとした選挙活動へのシフトなどが進むことも予想できます。ちょうど参議院選挙が7月に予定されているので、各候補者の選挙活動に注目してみたいと思います。
【参考】
イオンモール
「イオンモールはクールシェアを徹底応援!」
日本経済新聞
TOYO TIRE、猛暑で在宅勤務推奨を復活 9月末まで(2024年7月22日)
文化・娯楽
文化・芸術・エンターテイメント
猛暑により、屋外でのイベントが減少し、夏フェスや花火大会などの開催が難しくなっています。例えば、冒頭の足立区の花火大会のように、イベントの開催時期にも変化が見られます。夏の時期の屋外イベントを中心とした人々の楽しみの形や時期が引き続き変わっていくことで、新しい文化が生まれたり、エンタメの楽しみ方が変わったりといった変化が考えられ、動向には注目する必要があります。夏フェスが、秋フェス・冬フェスになったり、夏の甲子園が早朝とナイターのみ、あるいはドーム型球場での開催、時期をずらして秋の甲子園になったりなども、あり得るかもしれません。
趣味活動・娯楽・余暇
コロナ禍で自宅内での楽しみを模索した結果、ネット動画利用が拡大し、さらに楽しみを求めた結果の一つとして"推し活"が拡大したのではないかとひと研究所では考えています。「健康」の章でも述べましたが、暑さで外出を控える動きはコロナ禍と似ているため、動画やSNSなどを起点とした趣味・娯楽・余暇の過ごし方の中で、「推し活」がさらに活発になっていくかもしれません。
例えば、オンラインでのライブ配信や動画コンテンツの視聴が増え、ファン同士の交流がオンライン上で活発化していますが、この状況が継続、あるいはさらに拡大すると考えられます。
一方で、リアルな場で考えると、インバウンドによって有名観光地が混雑する中、日本人は避暑地や離島など涼しい場所への観光ブームが起きていく流れもあるかもしれません。
③価値観の変化
社会意識
社会に関すること(環境問題や社会課題など)への関心
猛暑が続くことで、温暖化問題や環境保護への関心が高まるかもしれません。普段の生活と結びつく問題だからこそ、自分ごと化され、猛暑の原因となることへの関心や意識が高まったり、エアコンを使えない家庭や暑さを我慢してしまう高齢者など、猛暑がもたらす社会課題にも関心がつながっていく可能性があります。それにより、エコやエシカルといった消費行動に関連した意識の高まりも予想されます。
倫理・規範
常識や価値観を変える
夏がただ単に暑いだけではなく、健康を害し命にかかわる異常な猛暑・酷暑の季節に変わってきたことにより、日本人の価値観も変化してきている様子がうかがえます。企業に対する熱中症対策の義務化も、学校の制服にポロシャツやハーフパンツが導入されていることも、少し前であれば「夏は暑いのが当たり前」「学校という場にふさわしい服装を」といった個人の努力や精神論に立脚していた考え方が、命を守ることを最優先ととらえ、そのために規則を変えるという方向に変化してきた結果といえるのではないでしょうか。
個人が我慢するべきものではなく、企業や学校や国などの組織が対策をするべきものとして、人々の倫理観や規範など「価値観」を変えつつある猛暑・酷暑は、今後もあらゆる領域で、現在常識とされていることを変えていくかもしれません。
おわりに
猛暑は私たちの日常生活、社会、文化、そして価値観に大きな影響を与え続けていく可能性があります。猛暑がもたらす生活者の意識と行動の変化を理解することは、企業が直面する課題に対処するための重要なステップであり、新たなチャンスであると言えます。生活者に起こる変化を認識し、適切な対策を講じることが企業や社会の発展には欠かせません。ぜひ、"夏の暑さ"と生活者を考える上での視点として、本稿の整理をお役立ていただければ幸いです。
また、今回は「猛暑・酷暑」をテーマに考えましたが、ひと研究所では、引き続き「生活者の将来」について、データや事象などから考え発信していきたいと考えています。ぜひご期待ください。