ヒットアニメの"視聴ジャーニー"から視聴者の楽しみ方を学ぶ 〜映像視聴の生活者研究シリーズ〜
- この記事はこんな方にオススメ!
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- アニメコンテンツ視聴促進のための施策を検討している方
- 視聴者がどのようにアニメコンテンツを選び、楽しんでいるか興味がある方
要旨
ヒットアニメの視聴ジャーニーに着目。ヒットアニメは他ジャンルに比べて世界観にハマりやすく、オンライン・オフラインで感想を言ったり書いたり見聞きしたり、身近な人への推奨行動も起きやすいジャンルである。アニメ自体の質だけでなく、世界観にハマれる周辺コンテンツに触れられる機会を充実させることが重要。
「アニメ」ジャンルによる視聴ジャーニーの特徴を探る
ひと研究所では、テレビ番組などの映像コンテンツの「視聴前」「視聴中」「視聴後」で起きる行動やリアクションである<視聴ジャーニー>が、コンテンツの"視聴体験満足度"を高めるという視点で、生活者研究を進めています(図1)。今回は、「ヒットアニメ」ジャンルにおける視聴ジャーニーの特徴や他のジャンルと異なる点について、調査結果やBuzzビューーン!データから見えてきたことをご紹介します。
<前回記事>
"動画聴ジャーニー"はコンテンツジャンルで異なる 〜映像視聴の生活者研究シリーズ〜
<視聴ジャーニー>について詳しくはこちら
映像コンテンツ戦国時代、視聴者の囲い込みには<視聴ジャーニー>活性化が効く〜映像視聴の生活者研究シリーズ〜
番組ジャンルごとの視聴ジャーニーの実態
ひと研究所では、2024年4月からクールごとに、その期間に放送されたテレビ番組を対象に実施した視聴ジャーニーに関する調査を実施(2025年1-3月を除く)。クールごとに特定の10番組を選定し、日常的な、個別番組における視聴ジャーニーの知見を蓄積しています。
【主に調査対象となる番組・コンテンツジャンル】
- アニメ
- ドラマ
- バラエティ(トーク、お笑い、クイズなどの娯楽)
- スポーツ(試合中継)
今回は、これまでの研究結果から「アニメ」、その中でも視聴率や話題性などを加味して"ヒットした"とされる3つのアニメに着目し、視聴ジャーニーの特徴を見ていきます。
ヒットアニメは他のジャンルに比べると、視聴前・視聴中・視聴後いずれも「関連する音楽・書籍コンテンツを見聞きした」「感想を言ったり、SNSに書いたりした/見聞きした」「家族や友人などに視聴を勧めた」という人が多い傾向でした。
また、全体的に視聴前・視聴後の行動が起こりやすい傾向が見られました。
周囲への発信や録画予約で放送を心待ちに
ヒットアニメにおける視聴ジャーニーの特徴を一つずつ見ていきます(図2)。
まずアニメは、オフラインで誰かと話したりSNSで書き込みをしたり、録画予約やお気に入り登録をするなど放送を心待ちにするような行動が、他のジャンルに比べて多く見られました。
なお今回は、当社の社内の意見ではありますが、とあるヒットアニメの視聴者に視聴ジャーニーのヒアリングを行いました。
すると、「前のシリーズ放送時に好きになり、今回のシリーズが始まるまでにSNSで友人に向けて宣伝投稿、友人を巻き込んで視聴した」という"もともとのファンである視聴者"の他、「X(旧Twitter)で原作/前作ファンの盛り上がりを察知して興味を持った」という"放送前に新たにファンになった視聴者"といった2パターンの視聴者が見られましたが、いずれもSNSを中心に楽しみが増していく様子がうかがえました。
当社の「Buzzビューーン!*1」(図3)を見ても、とあるアニメではユニークユーザー数(視聴者の数)が回を重ねるごとに増えていく様子がうかがえ、新規の視聴者が広がっていく様子が見られます。
*1 Buzzビューーン!とは
Twitterのつぶやきデータ(ツイート)を分析することで、番組に関連した話題の盛り上がり、いわゆる「バズ」の発生するタイミングや、ツイート内容から番組の"視聴質"を網羅的に捉えることができるサービスです。
詳細はこちら。
書籍や音楽など関連コンテンツを楽しむ
また、関連する音楽や書籍を楽しんでいる人が他ジャンルよりも多く(図4)、主題歌や原作を、放送前から興味を持ったファンや原作ファンなどが楽しんでいる様子がうかがえることが特徴の一つとして挙げられます。
世界観に浸るには、その作品を思い起こさせる音楽は切っても切り離せないコンテンツ。主題歌を聞くことで、アニメを視聴している時間以外の現実世界でも、そのアニメの世界観を楽しむことができます。
他ジャンルと比べてもアニメジャンルは主題歌が話題になることが多く、アニメ単体はもちろんのこと、その作品の"世界観"といったもっとスケールの大きなものを楽しんでいる人が多いのかもしれません。
感想・考察を見聞きしながら楽しむ
他人の感想や考察を見聞きしながら楽しんでいる視聴者が多いのもアニメの特徴です(図5)。
社内アニメ視聴者ヒアリングの結果でも、大きな展開や特徴的なセリフが出てくると他の視聴者の反応が気になってSNSを見てしまう、書き込みたくなってしまうという人も見受けられました。
ただ、基本的には集中して視聴する人が多いため、アニメは専念視聴(他のことはせず集中してコンテンツを見ること)に適しているコンテンツジャンルであると考えられます。
今回社内ヒアリングから、視聴中は集中しているという意見も見られたため、今後は視聴中の"専念度"についても深堀りしていきたいと思います。
リアルタイム放送を視聴した際に特徴的なワードや展開で盛り上がった場合は、録画や動画配信などで繰り返し視聴する動機となる可能性も秘めていることが考えられます。
繰り返し視聴し、作品の奥深さを楽しむ
ワードや展開の盛り上がり以外でも、録画や動画配信などで繰り返し視聴して楽しむ人も見受けられます(図6)。
社内アニメ視聴者ヒアリングでも、「1回目でストーリーを知ったうえで、2回目からはお気に入りのシーンを集中して見られる」といった目的で作品を2回以上視聴したという人も。
また、「他人の考察を読むことで、ストーリーの裏側にある背景情報を意識しながら見ると、見え方が変わってきて楽しい」といった、感想や考察を経て繰り返し視聴する人も見受けられました。
「アニメ」ジャンルの視聴ジャーニーまとめ
今回は、ヒットアニメの視聴ジャーニーについて分析しました。
ヒットアニメは他のジャンルと比べて、視聴関連行動が起こりやすく、世界観に浸ることをモチベーションとしている視聴者が多い傾向にあります。
ヒットアニメの楽しみ方の特徴としては、
周囲への発信や録画予約で放送を心待ちにする
書籍や音楽など関連コンテンツで楽しむ
感想・考察を見聞き、発信しながら盛り上がる
繰り返し視聴して楽しむことでより作品の奥深くに入り込む
が挙げられました。
原作やシリーズのファンがSNSで盛り上がることで、新規のファンが広がっていく。そして新規のファンは、世界観に深く入り込もうと繰り返し作品を見たり、周りに勧めたいと思って発信したりする。
このようなヒットアニメの好循環は、理想的な視聴ジャーニーの一つではないでしょうか。
アニメ自体の質もさることながら、原作や世界観のマッチした主題歌、ファンアートなどの周辺のコンテンツに触れられる機会を充実させることで、アニメを視聴する時間以外でもアニメの世界観にどっぷりハマれる仕組みを作ることも重要になってくると考えます。
また、絵の得意なファンが自分で推しキャラのイラストを描き、SNSで発信している様子もうかがえました。
アニメジャンルはファンによるイラストなどファンアートが生まれやすいジャンルでもあります。次の話や、公式からのコンテンツが更新されるまでの"隙間の空白"を、周りのファンの発信を見聞きすることによって埋めるという楽しみ方も見受けられます。
つまり、ファンにとって"周りのファンの発信"も一種のメディアとなりうるのです。
ひと研究所では、引き続き、テレビ番組や動画コンテンツなどに関する<視聴ジャーニー>の研究を発信していく予定です。ご期待ください。
視聴ジャーニーについての研究記事はこちら
「視聴ジャーニー」記事一覧
【調査データ概要】
調査名:ひと研究所 視聴ジャーニー クール調査「2025年4~6月」
調査方法: インターネット調査
調査対象: 日本全国の15~69歳(中学生は除く) かつ 各調査対象期間に放送されたテレビ番組(特定10番組)について、いずれか視聴経験がある。
サンプル数:2,228サンプル ※同一の回答者による複数番組への回答はそれぞれを1名とした延べ回答者数
調査内容:テレビ番組(特定10番組)のうち、視聴経験のある番組について、番組評価や視聴ジャーニーの実態を質問
調査期間: 2025年7月4日(金)~6日(日)