地域×メディアコンテンツ~交流人口・関係人口増加に向けた「私たち」の役割~【VR FORUM 2025】

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地域×メディアコンテンツ~交流人口・関係人口増加に向けた「私たち」の役割~【VR FORUM 2025】

[登壇者](右から)
株式会社テレビ高知 コンテンツ局 編成ブランディング部 部長 村山 まや氏
高知県 観光振興スポーツ部 観光政策課 おもてなし室 観光政策課企画監(おもてなし推進担当)兼おもてなし室長 谷脇 三和氏
株式会社ビデオリサーチ システムソリューションユニット システムプロデュースグループ コンサルタント
寺本 花菜子

地域活性化のために、自治体をはじめメディア、そしてビデオリサーチには何ができるのか。本セッションでは、高知県を題材に考えます。自治体、メディアそれぞれの立場から地域活性化に取り組む2名をお招きし、交流人口や関係人口を増やす方法について「ファン化」をキーワードに語り合いました。

地元民と観光客の「ファン化」が持続可能な地域活性化の鍵

はじめに、「高知県」「テレビ高知」「ビデオリサーチ」の3者がそれぞれの強みを生かして、「地域のファンをどのようにつくっていくか」を議論するというセッションの趣旨を寺本から説明。議論の中心となる「地域のファン」を「『観光客』か『住民』か、を区分せず、その地域を好きになってくれる すべての人」と定義しました。また、本セッションを通じて、地域に関わり続けてもらう仕組みの全体像を示すことに加え、「一度の訪問」や「一時的な参加」ではなく、継続的な関わりを生むための考え方を「高知」というエリアを題材に共有したい、と述べました。

まずは、観光資源が豊富な高知県について谷脇氏が紹介。一番のPRポイントはカツオのタタキをはじめとする「食」。柑橘類も多種多様で、地元産のゆずを使ったゆずポン酢が話題になるなど食材の宝庫であることを説明しました。また、四万十川などの豊かな自然を求めて訪れる方も多いこと、歴史の面では坂本龍馬、文化面ではよさこい祭り、そして、明るい県民性が特徴であることなどを述べました。

続けて、谷脇氏は高知県の人口減少について解説。1985年の84万人から減少が続いており、2010年から2020年までの直近の10年間で、総人口は9.5%減少。若者の減少率は20%で、倍以上のスピードで減少している点に大きな課題を感じていると話します。また、人口減少に歯止めをかけることも重要だが、関係人口を増やして地域に活力を与えるためには、観光が大切な切り口であると谷脇氏。ここで増加傾向にある観光客数を示しました。

課題② 観光客のファン化

同県では、2010年の大河ドラマ『龍馬伝』をきっかけに観光プロモ―ションを進めたことで、観光客数は400万人台を維持できるように。一時はコロナ禍の影響で減少したものの、2023年には連続テレビ小説『らんまん』の効果もあり、過去最高の472万人を記録。2024年も445万人と好調を維持していることを説明しました。

ここで寺本は高知県の課題を整理しました。1つ目は、高知県から流出した人々に対して、高知を離れても引き続きファンでいてもらうこと。2つ目は、高知を訪れる人々に、高知のファンになってもらうことだと述べました。さらに、ターゲットの設定について次のように見解を述べました。

「地元民」には、これから地元を離れる人も含めて、地元に誇りを持ち、その魅力を外部に発信していくようなファンになってもらうこと。「観光客」には、一度訪れて終わりではなく、リピータや応援者となるファンになってもらうこと。この地元民と観光客の両者にファンになってもらうことが持続可能な地域活性化の鍵だと考えていると話します。

加えてなぜ「ファン化」が重要なのかという根拠として、ビデオリサーチのひと研究所の「推し活」に関する調査データを紹介します。調査によると、ファンになった人はその対象にお金を使ったり、足を運んだりする傾向が高いことが分かりました。さらに対象の周りにあるものに対する興味が高まることも明らかになりました。

なぜ「ファン化」が重要か

寺本は「あらゆる人をファンにすることを考えると、地元住民69.2万と、年間445万人の観光客、この両者へのアプローチが重要になってくる」とまとめました。

「ファン化」に向けた、高知県、高知テレビ、ビデオリサーチ、それぞれの取り組みとは?

目指すゴールは「高知県のファン増加」と、3者とも共通していますが、それぞれに役割があります。高知県は観光素材の発掘と施策化、テレビ高知は、その素材を磨き上げて届けること、ビデオリサーチは効果検証です。ここからは各社がどのような取り組みをしてきたのかを紹介します。

高知県 ―高知県独自の観光資源を県庁の職員が発掘―

まずは谷脇氏が高知県の事例を解説。高知県では2013年から「高知家」というプロモーション活動を実施しています。県全体を一つの大家族と捉え、「高知県は、ひとつの大家族やき。」というキャッチフレーズのもと展開されています。県民同士のつながりだけでなく、県外の人々とも家族のような関係を築くことを目指しており、このプロモーションは現在も続けられています。

高知県における「ファン化」の取り組み①

「SUPER LOCAL高知家」が最新のプロモーションキーワードです。現在はこのワードをベースに、高知家の食「極上を味わう」、高知家の観光「極上に浸る」、高知家に住む「非日常を日常に」という、活動を展開しています。

さらに観光にフォーカスしたもう一つの施策として「どっぷり高知旅」も紹介。これは、日常を忘れて、高知ならではの魅力をじっくりと深く、たっぷり味わってもらい、強力な高知のファンになってもらうことを目指す観光キャンペーンです。谷脇氏は、「高知独自の観光資源は県庁職員が発掘しており、高知を訪れた方に『極上の田舎、高知』という非日常を体験してもらうことを目指している」とその意図を説明しました。

高知県知事からのメッセージも紹介されました。知事自身も強い想いを持ち、自ら積極的にメッセージを発信している様子が伝えられました。

テレビ高知 ―地元の方々との交流を大切にした番組作りで高知の魅力を届ける―

続いて村山氏よりテレビ高知の取り組みについて説明がありました。ローカル局として、地元民には「やっぱり高知っていいな」と感じてもらい、県外の人には「高知に行ってみたい」と思ってもらえるような番組作りを心掛けていると村山氏。

まず紹介したのは、2023年にスタートした『キテレツが咲く』というバラエティー番組です。お笑い芸人のFUJIWARAが高知のキテレツな人やモノを紹介する番組で、町を歩きながら地元の人や文化を紹介したり、地域のグルメを味わうといったコーナーの評判が良いそうです。村山氏は、「出演するタレントと地元の方々との交流を、番組制作で最も大切にしている」と語りました。

「小さなローカル局なので資金面も人の面でも苦労が多い」と村山氏。そんな中、ゴールデンでも通用する番組を作りたいとの想いで取り組んでいると話します。3年目になりようやく様々な自治体から「うちの町でロケをしてほしい」と依頼を受けるようになり、視聴率も直近(※2025年10月9日時点)の放送では8.2%(個人全体、高知地区)と、エリア同時間帯で1位を獲得。放送開始時からのTVerでの配信や、SNS発信など、県外にもアプローチをしています。

また村山氏は、観光客誘客につながる取り組みとして、同局の55周年を記念し、普段なかなかご一緒する機会の少ない全国区のタレントを起用した番組をワンクールに1回程度のペースで制作していると明かします。この番組は地上波だけでなく、TVerでの配信やBS-TBSで放送もしています。TVerの再生回数が伸びており、県外の方にも番組が届いていることを実感していると話しました。

「ファン化を意識した取り組み」については、東西に長い高知県の東の端にも西の端にも行くことを心掛けていると話します。その結果、「こんなところにまで取材に来てくれるのか」と地域の方に喜ばれるとともに、番組を通じて視聴者にもまだ知られていない高知の魅力を伝えることができていると村山氏。さらにSNSの投稿も積極的に行っており、出演しているタレントのファンに情報が届くような内容を意識して発信している、と語りました。

ビデオリサーチ ―効果測定とAIによる行動予測で次の施策のヒントに―

それではビデオリサーチはどんな面で貢献できるのでしょうか。寺本は得意とする効果測定と昨今取り組みが始まっている予測の面で役立てると話します。

まずは効果検証として「ファン化」の可視化をしたデータを提示。テレビ高知で行ったローカル放送による県内へのアプローチと、配信などで行った県外へのアプローチ、それぞれの効果測定結果を紹介しました。

ファン化を可視化する

番組を見た人が、番組で紹介したロケ地を訪れたかどうかを、番組の視聴ログと位置情報データを掛け合わせて分析。番組を見ていない人が偶然ロケ地を訪れたケースを「1」とした場合、番組を見た人のロケ地来訪率は、県内在住者で2.7倍、県外在住者で23.7倍と大きく上昇していることが分かりました(県内は放送後1か月間、県外は時間差を考慮して、配信開始から3か月間で計測)。「番組が視聴者を実際に現地へ誘導する役割を果たしていることが、データとして明確に示されている」と寺本。

続いて、予測の新たな視点として、ビデオリサーチが「メディアがどこで視聴されているか」「その視聴者がどこへ行くのか」「今後どこに向かうのか」などを、データとAIを活用して予測する研究も行っていることに触れました。

この話を受けて村山氏は、「人々の行動が予測できれば、番組制作に大きなヒントを得られると思う。また、それが新たなビジネスにつながる可能性も感じる」とコメントしました。

谷脇氏は「実は行政としても、観光施策を作る際には悩みながら進めてきた」と述べ、観光に関するデータが少ないことを指摘しました。その上で、「実施した施策の効果が数値で把握できるようになれば、次の施策を検討する際の大きな参考になるので、非常にありがたい」と言い、さらにAIによる行動予測もぜひ活用してみたいと話しました。

自治体、メディア、ビデオリサーチが目指す、地域活性化のNext STANDARD

ファン化に向けたそれぞれの取り組みが明確になった本セッション。寺本は「今後の抱負やお互いに期待することは何か」を問いかけました。

村山氏は、「ローカル局だからこそ、一番地域の魅力をわかっている」と述べ、その強みがコンテンツの発信力に結びついていると話しました。さらに、「今後も地域の人々の顔や想いが伝わるようなコンテンツを発信し続けていきたい」と力強く抱負を語りました。

谷脇氏は、「我々は、プロモーションの核となる部分は決められるが、素材としてどう見せるかは、ローカル局の方々が得意な部分なので、その独自の着眼点に期待している」と話します。また、「ビデオリサーチが得意とする効果測定や行動の予測は行政としても非常に注目している。このようなデータが入手できれば、より効果的な行政施策ができる」と期待を寄せました。

最後に寺本は、今回のフォーラムのテーマ「Next STANDARD」になぞらえ、「地域のファン化におけるNext STANDARD」として、あらためて3者の役割を次のように整理しました。「自治体は地域の魅力的な素材を見つけ出し、具体的な施策に反映させる。メディアはその素材をさらに磨き上げ、広く伝える。ビデオリサーチは、効果測定や将来予測によって両者をサポートする役割を担う」。そして、3者がそれぞれの役割を意識しながら施策の立案や改善に取り組むことこそが、「地域のファン化」と、その先にある地域活性化のための重要なモデルであり、これがNext STANDARDだと考えている、と語り、セッションを締めくくりました。

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