AI×データで進化する番組分析の可能性【VR FORUM 2025】
[登壇者](右から)
関西テレビ放送株式会社
総合編成局 メディアマーケティング部 部長
吉本 剛 氏
株式会社ビデオリサーチ
ネットワークユニット西日本グループ 関西支社 サブリーダー アカウントプランナー
松本 大輝
関西テレビ メディアマーケティング部とビデオリサーチは、AIを活用した「番組分析レポート」の自動生成ツールを開発、運用を開始しました。本セッションでは、AIを活用したツールの導入に至るまでの経緯や導入後の気づき、そして、今後AIによってさらに進化していく番組分析の可能性について語ります。
コンテンツの認知拡大とビジネス活用を目指す、関西テレビ メディアマーケティング部
セッション冒頭では、吉本氏が関西テレビ メディアマーケティング部の業務を紹介。同部のパーパスは、さまざまなデータを分析・活用し「コンテンツ認知の拡大」をすること、そして「ビジネスへの活用」を企画することです。
「会社としてはコンテンツ収入と広告収入を大きな柱にしており、特に広告収入の大きなファクターとなるのは視聴率=リーチと視聴時間。テレビ局は、一度番組を見始めた視聴者に最後まで番組を見続けてもらうことは得意だが、昨今はリーチの面で課題を感じていた。そこで、リーチの基礎となる『コンテンツ認知の拡大』からしっかりと取り組んでいこうと考えてパーパスを掲げた」と吉本氏は語ります。
同部の具体的な業務領域は、社内のコンテンツ制作の現場に対してマーケティングの視点で伴走すること。そのための情報収集や仮説提言のほか、マーケティング視点を"自分ごと"として認識してもらうための社内コミュニケーションの活性化にも努めています。また、これまでの常識が通用しない時代になってきていると吉本氏は語り、前例にとらわれないデータ分析・仮説構築に取り組んでいると説明しました。しかし、このデータ分析・仮説構築を行っていくには、大きな課題があったといいます。
近年のテレビ局の共通課題として、コンテンツを視聴者に届ける会社として生き残っていくために社内リソースをどう分配していくのか、という問題があると吉本氏。労働集約型であるコンテンツ制作の現場にリソースを集中させることで、マーケティング部門を含むその他の部署では慢性的な人員不足が課題になっています。加えて、データ分析・レポート作成は、非常に専門性の高い業務。調査手法の習得に時間・コストがかかるうえ、データから得られた情報とコンテンツ制作にあたっての打ち手を結びつけるには、担当者の経験に基づく主観=「暗黙知」に頼らざるを得ない状況だと吉本氏は説明しました。
関西テレビ×ビデオリサーチの取り組み~番組分析業務の「暗黙知」を「形式知」に~
こうした課題を抱えていた関西テレビに、ビデオリサーチは、生成AIを活用して人的リソースを掛けずに番組分析から仮説提言までを行う仕組みを提案。関西テレビとビデオリサーチの2社で、分析業務の「暗黙知」を「形式知化」し、番組の分析レポートをAIで自動生成するシステムの開発プロジェクトを発足させました。
そもそも「形式知化」とは、現場の経験や勘、個人のノウハウといった「暗黙知」を、誰もが理解・活用できるように言語化・構造化し共有可能な情報に変換すること。この「形式知化」のプロセスに生成AIが力を発揮する、と松本は解説しました。
今回開発したのは、多様な情報をダッシュボードで一元管理して可視化し、さらに、そのデータをもとにAIが分析してコメントを自動生成するシステム。関西テレビが保有する番組のメタデータ、ビデオリサーチが提供する視聴率データのほか、ニュースや天気をはじめとする外部データも一元管理して分析に活用しているのが大きなポイントです。
もう一つのポイントは、こうした多様なデータをもとに、AIが分析コメントを自動生成=「形式知化」してくれることだと松本は話し、AIによるコメントの実例を紹介しました。今回開発したシステムでは、特定の回の番組平均視聴率を分析するだけではなく、過去の放送回と比較して分析し、番組の直近の視聴率傾向を総合的にコメントすることが可能になっています。また、番組の毎分視聴率とメタデータをもとに、視聴率の変動の要因を放送していたコーナー名や番組内容にひもづけて具体的に示したコメントの出力や、流入・流出を含む競合局との比較分析にも対応しています。
吉本氏は「これまで、視聴率のデータをもとに各番組の担当者が分析とコメント入力を行いレポートを作成していたが、業務を分担する担当者が増えれば視点や表現がバラバラになり、担当者数が絞られれば業務の属人化につながるという課題があった。そこで必要となるのがAIの力。多くの番組を同じ視点で比較・分析することは、AIの最も得意な分野だと考えている」とAI導入の手ごたえを語りました。
さらに本システムでは、視聴率の数字から読み取れる内容のコメントだけではなく、考察と改善提案のコメントまでを生成AIが自動で作成。吉本氏は、「考察と改善提案までコメントしてくれるのがこのシステムの一番面白い点。過去のデータに基づいた客観的なコメントをきっかけに、番組会議でも有意義な議論が生まれるはずだ」と活用の広がりについても言及しました。
番組制作の組織・役割も変化する!テクノロジーを活用して、未来のありたい姿を実現
2025年の春先に導入したこの番組分析システムは、現在、関西テレビのメディアマーケティング部を中心に活用されています。システムの使用感を尋ねられた吉本氏は、「番組制作の現場で活用してもらうには、これからさらにビデオリサーチとの研究が必要」としながらも、「これまで3~4人の担当者が半日ほどかけておこなっていた番組分析レポートの作成業務が軽減されると、工数的にも精神的にもかなり楽になる。他のことにチャレンジできる時間も生まれるのでは」と期待を寄せました。
最後に松本が、ここまでの話を振り返ってまとめました。今後は、これまで経験や勘に頼っていた「暗黙知」を、AIを活用することによって誰もが使える状態=「形式知」にし、さらにコンテンツの制作現場が実際の番組の改善に活かせる「実践知」に変えていくことが求められます。加えて、番組改善のPDCAをより早く・より確実に行っていくには、「形式知」の標準化も必要になってくると語りました。
「先々は、システムから出てきたデータを、制作現場が主体的に番組の制作や改善に使える状態が理想だ」と吉本氏。それに対して松本は、制作現場が主体的にデータを使えるようになることで、番組制作に関わる組織の役割も変化するのではと指摘しました。AIによる番組分析レポートの自動生成システムの開発から始まり、これからAIの利活用が促進されることで、この先、番組制作に関わる部署においても、データを活用した番組制作のPDCAを自部署内で回したり、さらにAIを活用するためのプロンプトチューニングを自ら行ったりと、求められるスキルも変わってくるだろうと説明しました。
吉本氏はまとめとして、「メディアマーケティングの役割は、とにかくコンテンツや広告の価値を上げること。そのためにできることを、まずは『やってみる』ことが大事。特に、現状と将来のありたい姿を繋ぐのはテクノロジーの力なので、この点については今後もビデオリサーチと一緒に研究を重ねていきたい」と今後の展望を語りました。
松本も、「ビデオリサーチでは、放送局の皆さまが抱える課題を把握し、個別システムの開発や生成AIを活用した業務支援を行っている。お困り事があればぜひビデオリサーチまでお気軽にご相談を」と呼びかけ、セッションを締めくくりました。

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