2021年を振り返って思ったこと

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2021年を振り返って思ったこと

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によって1年延期された東京2020オリンピック・パラリンピックの開催、岸田新政権の発足とその直後の衆議院議員総選挙、東日本大震災から10年、熊本地震から5年となる2021年。大きなニュースもありましたが、まだまだ「コロナ禍」の影響が色濃く残る1年でした。

新型コロナウイルスの感染拡大は、年始前後の第3波から8月の第5波へとピークの感染者数が増加した一方で、ワクチン接種が進んだおかげか、第5波での死亡者数、致命率は改善がみられました。10月以降、国内の新規感染者数は落ち着きをみせており、このまま終息へ向かう期待と、海外での感染の再拡大傾向、新たな変異株で第6波への懸念が入り混じる2021年の年の瀬となりました。

21年最大のイベント 東京2020オリンピック・パラリンピックは、感染状況の終息が見通せない状況での開催に世論が割れました。第5波と開催日程の重なりを考えると、選手や関係者に大規模クラスターなどを発生させることなくやり遂げたことは快挙といってよいのでしょうが、オリンピックでは過去最多、パラリンピックでは史上2番目のメダル獲得に大いに沸くというよりも、総じて感染状況に配慮した控えめな祝賀となった気がします。

米国ではバイデン氏が第46代大統領に就任し、前政権の政策を転換しています。就任にあたっては1月6日、大統領選挙の結果を認定するために連邦議会が開かれていた議事堂をトランプ氏の支持者らが襲撃する事件がありました。この事件では「陰謀論」との関連が指摘され、日本でもその論に傾倒している層が少なからず確認されているのは、メディアの在り方や役割に一石を投じているかもしれません。

不安で、物騒な世相の中で、米国 大リーグにおける大谷翔平選手の二刀流での活躍は、気が晴れる清涼剤となり、様ざまな番組で投打の速報が流れる日々となっていきました。MVP受賞、おめでとうございます。

さて、そんな1年は、テレビ業界にとってはどんな年だったのでしょうか。 恒例により、放送・通信・ITまわりを見渡して【10大トピックス】をあげて振り返ってみたいと思います。

放送・通信・IT まわりの2021年 10大トピックス

● 日本の広告費 6兆1,594億円 地上波テレビ 1兆5,386億円(2020年)

●オリンピックが年間の高視聴率番組を席巻。配信も過去最大規模に

● サッカーワールドカップ予選 日本代表戦のテレビ中継はホームゲーム限定

● 深夜帯/30分尺、新たなドラマ枠開拓の試行

●10月、新たに5地区を加え、全国32放送エリアで機械式個人視聴率調査仕様を統一

● 東日本大震災から10年。節目の迎え方様ざま

● デジタル庁が発足

● 政府の値下げ要請に携帯各社 低価格プランをスタート

● 配信をテレビで、録画をデジタル機器で。視聴スタイルのさらなる多様化の兆し

● 民間放送70周年。テレビとしての70周年(2023年)もすぐそこに

概況 〜2020年の広告費

電通「日本の広告費」によれば、2020年の地上波テレビ広告費は1兆5,386億円、前年比88.7%で前年割れでした。番組広告(タイム)は、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催延期を筆頭とした大型スポーツ大会の開催延期や中止、広告主のコロナ対応で固定費削減策として出稿減などが要因になったようです。スポット広告は、緊急事態宣言により4-6月期から減少、7-9月期に回復の兆しが見えつつも、方向感は出ず、業種としては「官公庁・団体」の増加、「情報・通信」「自動車・関連品」での回復傾向が年間での特徴となったようです。衛星メディア関連は1,173億円で3年続けて前年に及びませんでした。

インターネット広告費(媒体費+広告制作費)は、2兆2,290億円 前年比105.9%と、コロナ禍でも他のメディアより回復が早く、成長を維持しています。媒体費の内訳では 1兆4,558億円が運用型で、インターネット広告費の成長の幹になっている状況は変わりません。その運用型が前年比109.7%であるのに対して、マスコミ四媒体由来のデジタル広告費と、物販系ECプラットフォーム広告費は2桁成長となっています。まだインターネット広告費の一部ではありますが、将来、どういう位置を占めていくのか、注目していきたいと思います。

2021年の高視聴率番組はオリンピックが席巻

新型コロナウイルスの感染拡大で開催そのものの賛否がわかれる中、東京2020オリンピック・パラリンピックは原則無観客となり、自国開催であるにもかかわらず、観戦方法がほぼテレビまたは配信の画面越しに絞られる異例の大会となりました。7月23日のオリンピック開会式は、執筆時点(2021年12月)、関東地区の視聴率で最も高く、次点はオリンピック閉会式(8月8日)。上位30番組まで広げても地震発生時のニュース以外は、オリパラか、箱根駅伝か、というラインナップで、スポーツがよく見られた1年となりそうです。

今大会ではNHK、民放とも配信への取り組みを拡大し、視聴者の数も過去の大会を大きく上回ることが報告されています。朝日新聞の報道によれば、オリンピックの放送時間は衛星を含めNHKと民放を合わせて1,520時間超。これも放送時間としては過去の大会に比べて多いのですが、NHKが約3,500時間、民放のgorin.jpが約2,600時間のライブストリーミングを実施したことを踏まえると、テレビでの放送時間の4倍相当にもなり、このことだけをとってもステージの変化のようなものを感じます。

サッカーワールドカップ 日本代表戦のテレビ中継が減少

スポーツ中継をめぐっては、サッカーワールドカップ カタール2022大会の予選大会、日本代表戦のテレビ中継がホームゲームのみになりました。ネットでの中継の配信は、ホーム・アウェイの両方の権利をDAZNが取得し、テレビでは中継を見られないけれど、ネット配信なら、視聴料を払えば見られる状況となりました。

国民の関心事は、テレビで取り扱われるのが当たり前、またはテレビが取り上げることで国民の関心が高まるといったことは、おおよそ表裏の関係であったと思われますが、このケースのように「対価を払えば、見たいものが見られる」、さらには「見たいものを見るには対価を払うもの」といった体験が増えると、番組/コンテンツへの消費意識が徐々に変わっていくことも予想されます。将来、振り返ってみると価値観の変わる「分岐点」となった出来事のひとつになるかもしれません。

就寝前の可処分時間の争奪戦。23時台より深いドラマ枠の増加

2020年と比較してみると、関東では23時以降のドラマの放送量が増えていました。すべてが新作ではなく、関連作にちなんだ再放送なども含みますが、民放では21年に23時台が27作(12作増加)、24時以降が63作(11作増加)となっています。寝床に入って、スマホを見ながら寝落ちするといった行動パターンもよく聞きますが、就寝前の過ごし方として、テレビ局から生活者への提案といった側面もありそうです。また、1時間ものは拘束時間が長いと感じる層に配慮してか、30分尺の作品の増加も特徴として指摘できそうです。23時台、NHKは本数を減らしていて、ドラマ全体としては「やや増加」が実態ではあるのですが、ストーリーの続きものは視聴習慣の形成にも役立ちますし、配信においても主力コンテンツであるドラマの枠の設け方は、今後より戦略的なものになっていくように思われます。
※作品数は、15分以上、5回以上放送の番組でカウント

全国32エリアの視聴率調査の仕様統一化が完成

自社の取り組みで大変僭越ではありますが、2021年10月より山梨/福井/徳島/佐賀/宮崎地区で機械式個人視聴率調査を開始しました。これにより、全国の放送エリア32地区で、365日、個人を単位とするテレビ視聴データが整ったことになります。20年に実現した「全国視聴率」によってテレビとデジタルでの基本的なエリアや単位の違いに取り組み、21年、新たな5地区での調査開始により、いずれの地区でも共通した仕様の視聴率データで番組や広告の評価が可能な体制が整ったことになります。

世帯や個人ALL(個人全体)での共通の指標整備の一方、区分をより掘り下げる場合の課題への対応として実数系の視聴ログへの取り組みや、11月11日開催のVR FORUM 2021でご紹介した視聴質への取り組みなど、サービスへのご評価をいただきながら、当社では引き続きメディアデータの拡充に取り組んでまいりたいと考えています。

東日本大震災から10年。体験を記録して、未来に届ける放送局の役割

2021年は東日本大震災から10年でした。つい「節目」という言葉が浮かびますが、復興を十分に成し遂げ、振り返ってみられるのとは違って、原発の廃炉、処理水の問題なども含め、今も様ざまに被災への対応の取り組みが続いていることを思うと、使うことが憚られる言葉でもある気がします。在京キー局では報道特別番組を組み、ローカル局の取り組みでも、福島では民放4局とNHKでの共同キャンペーン、日本テレビ系列では岩手・宮城・福島の3局での復興特番などが放送されました。あえて特別番組の体裁はとらず、震災直後から放送してきた番組を変わらず放送した局では、いつも通りにその日を迎えることが市民への寄り添いであり、被害の大きかった被災県の局ならではのメッセージの在り方なのだろうとも感じました。

被災体験のフラッシュバックに配慮して、テレビ番組では、津波の映像を放送する場合には事前に告知を流すことがスタンダードにもなりました。防災意識を喚起するには実際の災害映像は説得力を持ちますが、無神経にそれを扱わないようにするテレビ番組の倫理観、こういったことがもう少し生活者に伝わるとよいのだが、ということを思ったりもします。
改めて、被災された方々にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈り致します。

デジタル庁が発足。生活者のデジタル化は進んでいるけれど

2021年9月にデジタル庁が発足しました。当面は行政のデジタル化にフォーカスがあたるようですが、内閣の直轄なので、ゆくゆくは省庁横断の政策、指針提示などへも領域を広げていくと思われます。一方、生活者の側では、この20年あまりで個人が携帯端末を持ち、モバイルインターネットが相当数に普及している状態にあり、生活者は好むと好まざるとにかかわらず「デジタル化の波」を浴びてきました。

例えば、電子マネーのEdyとSuicaがそれぞれ20周年を迎え、スタート時はクレジットカードと同様の物理的なカードでしたが、今ではそれをスマホのアプリで利用するのが当たり前にもなってきました。また、メディアのデジタル化によっては、自宅の本棚やCD・DVDのラックが場所を取らなくなったり、不要になったりした家庭も少なくないことでしょう。この辺は従来とは決済と流通が様変わりしていることでもあり、消費と生活のスタイルそのものにもインパクトを与えていることと捉えられます。

そこではいくつかの階層で「プラットフォーマー」の役割が重要になってきており、デジタル庁がそれに対して、どのように支援と規制を働きかけていくかが、日本社会のデジタル化の進展に大きく影響しそうです。

携帯電話料金の値下げ進む

本稿では、何度か携帯電話料金のことを取り上げてきましたが、端末販売方式への注文、ナンバーポータビリティやSIMロック解除の推進で、何を実現したいのだろうと疑問でもありました。2020年以降の大手キャリアへの政府直々の値下げ要請によって3,000円程度のコストパフォーマンスのよいプランが各社から投入されたのは、生活者にはありがたいことだったかもしれません。

その一方で、大手キャリアの寡占状態を緩和する狙いがあったはずのMVNOの事業が難しくなったり、低価格プランによる収益へのダメージが、5Gや次の6Gに対する大手キャリアの投資余力を損なうのではないかと懸念する報道もあります。

個人の通信、移動、決済の記録が残せる端末の意味合いで、移動通信キャリアは前段でいう「プラットフォーマー」として、重要な役割を果たすことが想定されます。値下げそのものは生活者にとってありがたいのですが、もう少し高所からの戦略が必要な領域に思えてなりません。

デバイスと視聴コンテンツの組み合わせはどこまで進むか

2021年11月に発表されたばかりの株式会社ピクセラの「Xit Air Box/Xit Base」の報道を見て、数年後、ひょっとすると、録画番組の保存先として「クラウド」が一般的になっている可能性もあるのではないかと思いました。同製品は、クラウド上のストレージに録画する機能を持った単体のテレビチューナーで、録画先の特色を除けば機能はDTCP+に近いかもしれません。リビングでは、テレビでYouTubeやSVODサービスを楽しみ、個室や外出先ではモバイル機器でクラウドに録画したテレビ番組を楽しむ、だいぶ捻じれ込んだ複雑な状況ではありますが、テレビ番組・動画コンテンツの視聴環境の選択肢は、まだまだ膨張していきそうです。

民間放送70周年。公共的役割を果たすために、産業の形が変わるかもしれない未来

2021年は民間のラジオ放送が始まって70周年でした。1953年には放送を開始したテレビの古希も間もなくです。民間放送70周年記念全国大会において、日本民間放送連盟の大久保会長は、ご挨拶で2つの視点を提示されていて、そのひとつ「影響力の大きい放送の社会的責任を自覚し、公共的役割をしっかりと果たす」は、今後一層重要になってくるように思えます。

偏向、切り取り、報道しない自由など、マスメディアを批判する声はありますが、冒頭の陰謀論を検証して是正することや、震災番組で触れた視聴者への配慮などは、メディアに矜持や自覚があって実現できることです。そういう意味では、新たにBPOにかかる残念な案件もありましたが、接点を増やし、粘り強く、生活者/視聴者の信頼を積み上げていくこと、そのこと自体も伝えていくことが必要なのかもしれません。

2022年に向けて

コロナ禍にあって、不安感・停滞感の解消されない1年でしたが、日経平均は2021年の年初2万7,000円台から始まって、9月14日には終値で3万0670円10銭と31年ぶり(1990年8月以来)の高値を記録、現在は世界的な新型コロナウイルスの感染再拡大傾向、オミクロン株の出現などで方向感が乏しくなっています。上昇相場は、どうも生活者の肌感と乖離しているようでもあり、国内の二極化や分断が一層進んでいるのかもしれません。

恒例の株式の格言によれば「寅は千里走る」。一見景気がよさそうですが、前年末の終値を上回ったかどうかでみると寅年は1950年以降、1勝5敗で十二支の中でワーストとのこと。若干心配なめぐりあわせの年ゆえに、マスメディアの公共的役割がより一層期待される年になりそうです。
本年も大変お世話になりました。2022年もどうぞよろしくお願い致します。

※この記事は2021年12月下旬に執筆したものです。

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