「動画広告市場が伸びている」は"本物"か?

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広告・マーケティング
#ACR/ex #動画広告 #広告 #新型コロナ #生活者データ
「動画広告市場が伸びている」は

1.動画広告市場規模は"本当"に伸びている

20年3月に電通より発表された「日本の広告費」におけるインターネット広告の詳細分析結果によれば、インターネット上での動画広告(ビデオ広告)は2019年に比べ157.1%の伸長となり、市場規模は3,184億円に達しました。これはインターネット広告市場全体の2割を占める規模であり、今後も規模を拡大し、プレゼンスを強めていくと予測しています。

そして、言わずもがな新型コロナウイルスの影響で「おうち時間」が増えたことで、生活者がインターネットに触れる時間は大きく伸びています(図1)。

これはインターネット広告市場から見れば「広告の配信対象となる生活者に出会える機会が高まっている」=在庫が増えているということを意味し、動画広告を出稿したいという広告主のニーズに対する追い風となっていると言えるでしょう。

【図1】「おうち時間」の増加によりインターネット利用時間量は全年代で大幅UP

ここまで述べた内容は無論、嘘偽りない"本当"の分析結果です。
一方で、この"本当"の分析結果を別の角度からみるとひとつの疑問が芽生えます。

広告主⇔インターネット広告配信事業会社の中での"市場"は盛り上がっているが、
生活者の間でも同じように盛り上がっているのだろうか

インターネット広告市場は「B to B」のビジネスですが、B=広告主がこの市場にお金を払うのはC=生活者(消費者)に対するアプローチを行うためです。

前述のとおり、コロナの影響もあり、生活者が動画広告に触れる時間量は自然と増えていると考えられます。そのような中で、時間量だけでなく、生活者にとって動画広告の存在が、良い商品・サービスとの出会いのきっかけになったり、好意的にとらえられているなどの"プレゼンスアップ"があってこそ、「他の広告よりも動画広告を出稿したほうがよい」と真に判断できるのではないでしょうか。

そこで本記事では、「動画広告市場の伸長」が果たして「B to B=企業内での盛り上がり」だけなのか、そうではなく、「最終顧客であるC=生活者内でのプレゼンスも高まっている"本物"の伸長なのかを当社生活者データベース「ACR/ex」より紐解いてみます。

2."本物"かどうかを検証する

検証の視点は「現在のイメージ」「実際の行動」「今後の可能性」の3フェーズに分けました。

①【現在のイメージ】生活者は動画広告を「どう思っている」のか?
②【実際の行動】生活者は動画広告に背中を押されて「行動(アクション)をとった」のか?
③【今後の可能性】生活者は動画広告を「今後の新しい行動(アクション)にも活かす」のか?

通常、動画でも静止画でもインターネット広告は「20~30代」「年収500万以上」などターゲットを絞って出稿します。この現状を踏まえて、ここから掲載するデータは、「男性20代」にターゲットを絞ります。

また、動画広告は端末の大きさでも印象が左右されるため、この年代の利用が特に多い「スマートフォン等のモバイル端末で見るもの」に絞り、分析を行った結果を紹介します。

① 検証1:【現在のイメージ】生活者は動画広告を「どう思っている」のか?

(図2)は、20代男性のモバイル端末における動画広告への印象(23項目)のうち、2018→2020年で大きく上評価を上げている項目をピックアップしたものです。

【図2】
ミドルファネルはもちろん、アッパーファネルでも動画広告は存在感を発揮

最もスコアアップしているのは「商品・サービスへの内容理解」(+9.8pt)。次いで2位に「商品やサービスへの欲求喚起」(+9.0pt)とミドルファネルに効いている様子がうかがえます。元々、ミドルファネルを強みとしている動画広告ですが、バナー広告よりも情報量が多く、音声も交えた立体的な訴求が可能なことから、広告出稿側が狙った通りの結果が表れているといえるでしょう。

また、YouTubeに代表される動画メディア上でのインストリーム広告は「TVCMに次ぐリーチ補完目的」で利用する広告主が多いです。これを受けてか、3位に「発売された事を知る」(+8.8pt)、4位に「商品名が印象に残る」(+7.7pt)とアッパーファネルでもスコアアップしています。その他、5位以下でもファネルの上部〜中部にかけて多くの項目がランクインし、全23項目スコアダウンした項目はひとつもありません。このことから、あらゆる角度においても動画広告の存在感が高まっているものと考えられます。

ただし、懸念すべき点も見られます。(図3)をご覧ください。

【図3】
実は最もスコアアップしている動画広告のイメージは...

実は、ここ2年間で最もスコアアップしている動画広告のイメージは「ストレスを感じる」というネガティブな印象なのです。さらに、2位も「ひとつの広告を何度も見聞きする」という過剰フリークエンシーを連想させる項目がランクインし、市場が大きくなって生活者が動画広告に接する機会が増えた分ストレスを感じるシーンも増えている様子がうかがえます。

広告に限った話ではありませんが、心理学でも「ネガティブバイアス」と呼ばれる通り、人は総じていい印象より悪い印象の方が記憶に残りやすく、いい印象を100回経験しても悪い印象を1回経験してしまうとそのたった1回が強く印象付けられがちです。

釈迦に説法ではありますが、市場が広がっていようとも生活者のインターネット体験を阻害するようなクリエイティブや広告フォーマット・媒体等になっていないよう、広告を出稿する際は配信後の効果検証調査を行うなど、生活者視点での「事後検証」を定期的に行うことを強くおすすめします。



配信後の効果検証調査ってどうやるの?
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なお、今回紹介した「男性20代」以外の性年代ターゲットでも、総じて同様の傾向があることを確認しています。

生活者は動画広告をどう思っているのか?

② 検証2:【実際の行動】生活者は動画広告に背中を押されて「行動(アクション)をとった」のか?

(図4)は、当該1年間に動画広告を見て行った行動(アクション)を20代男性にあげてもらったものです。

【図4】
動画広告により起こしたアクションは19年→20年で急上昇

18年→19年ではあまり変化が見られませんが、どの行動も19年→20年で大きくスコア上昇している結果であり、明らかに動画広告による行動効果が高まっていることがわかります。

これはやはり、コロナ禍で外出が難しい期間もあったことから、ECでの商品・サービス購入や購入のための検討を行う機会が必然的に増えたのが大きく影響していると容易に推察できますね。

なお、年代別に見てみると(図5)、やはり若年層の方が行動(アクション)を起こす割合が全体的に高いです。

今後さらに動画広告市場が拡大していくことで高年層向けの商材の出稿も増えてくるかもしれません。そのときは、現段階ではまだあまり行動に至っていない項目のスコアもはねてくるのか、ウォッチしていく必要があるといえるでしょう。

【図5】
動画広告により起こしたアクションは、若い世代のほうが上昇幅が大きい

生活者は動画広告に背中を押されて行動を取ったのか?

③ 検証3:【今後の可能性】生活者は動画広告を「今後の新しい行動(アクション)にも活かす」のか?

最後に、これから広告を出稿する人に参考にしていただきたい検証結果を紹介します。
(図6)は20代男性が関心を持っている商材カテゴリ別に、動画広告で情報入手すると答えた割合を示したものです。

【図6】
動画広告の貢献度は商材カテゴリにより傾向が異なる

検証1、2とは異なり、こちらはカテゴリにより傾向が異なる結果となりました。

まず①の消費財(お菓子・清涼飲料)をみてみましょう。18年→19年で大きくスコアが増え、19年→20年でも上昇傾向を維持しています。このカテゴリは動画広告が生活者の中でも存在感を増してきていそうですね。

次に②の中価格帯商品(衣料品)・サービス(医療保険・賃貸住宅情報)は絶対値のスコアが非常に低く、上昇・下降いずれの傾向もみられません。未だ静止画や文章での情報提供が多いカテゴリのため、今後見せ方を工夫しながら動画広告も使いこなしていくことによって先陣的に効果があがる可能性のあるカテゴリという見方もできるでしょう。

③はゲーム関連です。スマートフォンで利用するアプリの中でもゲームアプリは人気が高く、利用者も、そしてアプリの種類も非常に豊富なため、従来より動画広告が盛んに出稿されているカテゴリです。そのような背景から18年時点でもすでにスコアが他カテゴリより圧倒的に高く、19年でスコアが高止まっている印象を受けます。今後も安定して動画広告が寄与するカテゴリと言えそうですね。

④ の高級商材(自動車)は、18年→19年→20年と少しずつではありますが、スコアを伸ばしています。20代男性にとってはかなり大きな買い物であるだけに、静止画や文章等だけでなく、動画も見ながら購入検討を進める生活者が少しずつ増えているのかもしれません。

上記は20代男性の結果ですが、他の性年代で見てみても同様に「商材によってはスコアが上昇傾向にある」となりました。また、20代男性も含め、検証1と同じく、スコアが下降傾向にあるカテゴリは見られなかったため、動画広告が生活者への適切な情報提供を行う広告形式としてポジティブな未来が予見できると言えそうです。

生活者は動画広告を今後の新しい活動にも活かすのか?

3.まとめ:「動画広告市場が伸びている」は"本物"だったか?

3つの検証結果から、生活者視点から見た「動画広告市場の伸長」も"本物"ということが確認できました。

併せて、検証1で判明した「ネガティブバイアスへの配慮」、検証3から見て取れる「商材カテゴリごとの攻め方」など今後、動画広告の出稿を検討する企業にとって参考になりそうな情報も得られました。

「ビッグデータ」という単語が出て久しいですが、このような情報はいわゆる「アンケート」だからこそわかることでもあります。デジタル化が進み、ビッグデータを気軽に扱える環境やツールが多数登場した今、積極的にビッグデータを活用していこうとする企業も多いことでしょう。もちろんビッグデータの活用も大切ですが、他方でお客様である生活者側から見た自社のコミュニケーション活動に対する意見・思いをくみ取ることも同様に大事なことです。定期的にここまで述べたような分析を行い、ぜひ自社のコミュニケーション活動に活かしていただければ幸いです。

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今回紹介した「男性20代」以外にも、当社保有の巨大生活者データベース「ACR/ex」ではたとえば

?ビール好きの20代男性会社員
✅終身型の生命保険を契約している50代以上
✅お米はオンラインで買う派の主婦

・・・などなど、21万項目にも及ぶ多様なターゲットラインナップから同様の分析を実施することが可能です。特定のブランド・銘柄で指定を行うこともできますので、ご興味お持ちの方はお気軽にお問い合わせください。

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