広告会社からみたテレビメディアの価値とこれからについて【VR FORUM 2022 レポート】

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広告会社からみたテレビメディアの価値とこれからについて【VR FORUM 2022 レポート】

[登壇者](右から)
株式会社電通 ラジオテレビ局長 石渡 弥氏
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ テレビタイムビジネス&ラジオ局 局長 川上 純平氏
株式会社ビデオリサーチ テレビ・動画事業ユニットマネージャー 板東 大介

視聴デバイスやプラットフォームの多様化が進み、「放送」と「配信」がボーダレスになる中で、テレビ広告ビジネスはどのように変化するのか、テレビの価値を最大化するにはどうしたらよいのかについて意見を交わしました。

■「アウトサイドファネル」への効果がテレビならではの価値

「テレビメディアの効果や価値としては圧倒的なリーチ力を挙げることができる」とした上で、まず石渡氏に"量的な視点"での見解を問う形でセッションがスタートしました。これに対し石渡氏は、近年ではファネルに基づいたマーケティングの考え方の中で「テレビはトップファネルにしか寄与しない」といった見方やデジタルに押され気味の状況を受けて、テレビが過小評価され、テレビ本来の価値やポテンシャルが表に出づらいという声を聞くようになったと話します。

一方で石渡氏は、テレビの価値やポテンシャルを「3UP効果」として整理する中で、テレビは「トップファネル」に強いだけでなく、「ミドルファネル」にも寄与し、さらにはファネルの外側に存在する生活者の中で商品やサービスに興味を持っている人を後押しする役割を担っていると説明します。

「研究を進める中で、テレビには『Scale-UP(=多くの人を巻き込む力)』『Speed-UP(=早く届ける力)』『Interest-UP(=興味を呼び起こす力)』という3UP効果があることが明らかになってきました。またテレビの商流は『タイム』と『スポット』に分かれますが、3UP効果でみるとスポットはトップファネルに、タイムはミドルファネルに強みをもつ出稿手段であると言えます」(石渡氏)

さらに石渡氏は、人の購買において注目すべきはSNSやおすすめサイトなどを通じて買いたい気持ちを強める「買いたい気持ちを『補強』する購買」だけでなく、何を買うかがあらかじめ頭の中にあり「考える手間を『省略』する購買」や「周囲の人の評価・認知に『同調』する購買」といったアウトサイドファネル(ファネルの外側)が見過ごされやすい点を指摘します。

「テレビのマス広告としての役割には購買の『補強』に加えて『省略』や『同調』の購買にも寄与しており、いわゆるシグナル作用だけではなく、ノイズ作用にも効果を発揮するポテンシャルを持っています」(石渡氏)

「テレビの価値」のあるべき姿

■テレビは"未知"との出会いを広げ感情を"共有"し合えるメディア

FIFAワールドカップカタール大会を引き合いに出し、テレビの価値について、石渡氏と川上氏に意見を求めました。それに対してまず石渡氏はテレビ放送としては、テレビ朝日、ABEMA、フジテレビジョン、NHKで全試合を無料で視聴できる環境が整えられたと説明。そして上質なコンテンツを無料で視聴できることが当たり前でない時代に突入していることに触れ、できる限り多くの方に素晴らしいコンテンツを届けるというのは民放の役割であり、我々の役割であると感じていると話します。

FIFAワールドカップカタール大会における放送と配信の取り組み

「また、サッカーを含めた上質なスポーツコンテンツを公共の電波としての無料放送を実現することで、広告主にとってはCMによるマーケティング機会の創出につなげられ、なおかつ誰もが視聴できる地上波放送で配信することでスポーツコンテンツの発展に寄与できます」(石渡氏)

続いて川上氏はテレビメディアには圧倒的なリーチ力があると言及した上で、生活者に「未知との『出会い』‐Serendipity-」や「感情の『共有』-Share-」を実現できる価値があると話します。

「テレビを見て、気になった情報や商品を検索してみようと思ったり、サービスを体験してみたいと感じたりするような『出会い』を生活者に届けることや、前日にドラマで流れたCMや番組の感想を言い合って感情の『共有』ができること自体に価値があると言えます。最近は、自分が興味のないものに出会う機会が減り、不寛容な世の中になったといえます。『フィルターバブル』のような社会問題も発生していますが、テレビメディアが持つ『出会いを広げる』という価値を活かすことで、新たなうねりを作り出すことができるのではないかと思っています」(川上氏)

テレビメディアの2つの価値

石渡氏と川上氏の話を受けて板東は、当社のACR/exデータを使い、量的に検証をした結果、商品・サービスの認知メディアとして「地上波民放テレビ」に接触している人の割合は73.1%で、他メディアと比較すると圧倒的な力があり、「アウトサイドファネル」を含めたすべてのプロセスで効果があると解説。また、広告の内容をブログやSNSに書き込みをする際にどのメディアからの情報が多いかを調べると、テレビの割合が10.0%となり、他の広告メディアよりも拡散力があり、『共感』や『共有』を促し、「世の中ゴト化」に寄与できることも見えてきたと説明しました。

■広告との自然な出会いがポジティブな認知効果につながる

川上氏は、あらかじめ番組のどこにCMを挿入するかが設定された広告挿入前提の「フォーマット」や放送局が企業やサービスの安全性や伝えるメッセージの正当性を自社で考査した上でCMを配信していることによる「信頼性」もテレビの重要な質的価値だと話します。

「広告ビジネス主体のネット配信事業に関しては、コンテンツ制作・配信と広告の挿入が分離していることがほとんどだと思いますが、テレビメディアの場合、放送局がCM枠を設定することを前提に番組の制作を行っています。それにより安心安全なクリエイティブを視聴者が慣れ親しんだ広告フォーマットで届けることでストレスを感じることなく広告に接触し、"ポジティブな認知"につながっているのだと思います」(川上氏)

テレビ広告がポジティブに認知される2つのポイント

■「ブランドインテグレーション」で広告とコンテンツの融和を実現

また川上氏は、ネット配信やウェブニュース、SNSをはじめとして広告と生活者の接点は増えているものの、テレビメディアも含めて広告やコンテンツの融和による広がりを設計しなければならないタイミングがきている、と話します。

「すでに放送局と広告主様と我々(広告会社)の三位一体のチャレンジとして、『ブランドインテグレーション』という呼称で取り組みを進めています。従来型の『プロダクトプレースメント』は番組本編内に広告スペースを露出するというコミュニケーションでしたが、『ブランドインテグレーション』はブランドとコンテンツの世界観を融合して作り上げたメッセージを"面"で伝えることでポジティブな『出会い』と『共感』を生み出すコミュニケーションを作ろうという考え方です」(川上氏)

プロダクトプレースメントとブランドインテグレーションの違い

川上氏からの説明を受けて石渡氏は、電通で近年広告主に提案している「4つのアプローチ」の中で「Context Approach」が「ブランドインテグレーション」と重なる考え方だと説明します。

「広告の目的に応じて、力の入れどころを変える『4つのアプローチ』を広告主様に提案させていただいています。認知拡大・プレゼンスアップを狙う『Reach Approach』、好意形成・リテンション促進のために繰り返しCMをあてる『Frequency Approach』、コアターゲットとそれに近しい人をターゲットとして関与が高まる瞬間にCMをあてる『Moment Approach』、イメージや世界観を醸成して関連性の高い番組でCMをあてる『Context Approach』の4つがありますが、特に『Context Approach』がさらに発展すれば、新しい広告の価値につながると思います」(石渡氏)

■放送と配信のボーダレス化が進み、トータルリーチで価値を表す時代に

続けて、セッション後半に移るブリッジとして板東は、当社のMCR/exデータを紹介。コロナ禍によってテレビメディアの視聴デバイスやプラットフォームの多様化が進み、当社が関東地区の2700世帯を対象に調査した視聴率パネル内でのCTVの普及状況を示した結果では、2022年9月末時点での世帯普及率が65.4%であり、CTV普及率は約半年前には61.4%、1年前では52.6%で、着実に普及が進んでいることが分かる(板東)。

さらに「リアルタイム視聴以外でのテレビモニターの週平均・1日あたりの利用分数を調査すると、タイムシフト視聴はコロナ前の2018年と2022年を比較しても横ばいの数値である一方で、動画視聴はコロナ前と比較すると大きく視聴分数を上げるという結果になりました」と補足しました。

テレビモニター内での動画視聴時間が拡大

視聴環境の変化が加速する中で、2022年には地上波民放のリアルタイム配信がスタートしました。こうしたテレビメディアにとっての大きな動きについて、石渡氏は「放送と配信の全てのピースが揃った」との見解を示します。

「昨今の動きは放送と配信が"ボーダレスな時代"に突入したことを示しており、広告の価値もトータルリーチで価値を表していくことが大事になると思います。リアルアイム、タイムシフト、リアルタイム配信、キャッチアップを含め、すべての価値を表すのがスタンダードになっていくのではないでしょうか」(石渡氏)

また川上氏は同時配信の開始により、テレビのヘビー層の「とりあえずつけておこう」という既存価値に加えて、コロナ禍を中心としたデジタルシフトで自分時間やSNSを併用してリアルタイムのイベント性を楽しみたいという若年層が増え、新しい価値が生まれているのではないかと分析します。

川上氏の話を受けて板東は、在京5社同時配信サービスワーキング様の2022年6月のレポートを引用しながら、リアルタイム配信によってM1やF1といった若年層の獲得につながっており、地上波放送のノンテレ層やライト層の獲得にもつながっていると説明しました。

■テレビ対デジタルではなく、双方の良さを組み合わせる時代に

石渡氏は今後のテレビ広告ビジネスについて、テレビ対デジタルではなく、テレビとデジタルを掛け合わせる中に、どれだけビジネスとして入っていけるかが鍵になると話します。

「地上波のリアルタイム視聴、タイムシフト視聴、配信など、上質な放送コンテンツを無料で見られる環境は整いつつありますが、地上波を見る人は減っていくという現実があります。だからこそ、放送と配信がボーダレスになった時代に合わせた広告ビジネスを作っていかなければなりません。コンテンツを活かしながら我々がどのようにビジネスを広げていけるかが大事だと思います」(石渡氏)

広告主の皆様に求められていること

トータルリーチの構築

■変わらない"制作力"でキングコンテンツを世の中へ 変わりゆく"届け方"で世の中にうねりを

川上氏は生活者のデジタルシフトが進む今だからこそ、放送局には"制作力"という強みを活かして世の中が待ち望んでいるキングコンテンツを届けてほしいと話します。

「デジタル時代の生活者のニーズにアジャストしながら、放送局さんが集まってTVerのようなプラットフォームを作ってコンテンツの新しい届け方にチャレンジするのも有効だと思います。広告会社の立場で生活者との接点作りに一緒に取り組んで、世の中にうねりを起こしていきたいと思っています」(川上氏)

石渡氏は、テレビ広告と配信のデジタル広告をいかに組み合わせて放送コンテンツを届けるか、そして届いている価値をどれだけ可視化できるかが広告ビジネスにとって重要な時代になっていると話します。

「テレビはオフラインメディアと言われがちですが、すでにオンラインメディアの時代に入っています。テレビ広告が今まで築き上げてきたタイムスポット市場とこれから伸びていくデジタル広告市場を別々のビジネスとして成立させるのではなく、テレビ広告とデジタル広告を組み合わせたハイブリッドなコンテンツの届け方やセールスの仕方を放送局の皆さんと一緒に具現化していきたいです」(石渡氏)

■テレビメディアの価値最大化に向けて

セッションのまとめとして板東は、テレビビジネスに関わるすべてのプレーヤーが共創型で協調領域の高度化を推進する中、当社もその一員としてデータやその利活用などのシステムといったバックヤード面から尽力していきたい、と想いを語りました。また、今後は一社による整備がますます難しい状況を迎えるだろうと述べ、関係者の皆様と共にテレビメディアの価値最大化に取り組んでいきたい、とメッセージを伝え、本セッションを締めくくりました。

本日のまとめ

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