メディアはマーケティングでもっと強くなる【VR FORUM 2025】
[登壇者](右から)
株式会社NexGen CEO 金井 統 氏
株式会社ビデオリサーチ
ソリューションユニット ビジネスソリューショングループ
マーケティングコンサルティング担当 コンサルタント
宮田 正晃
メディアを取り巻く環境が変化する中、メディアへの接点が増えていることはチャンス。マスメディアが持つコンテンツ生成力と発信力にマーケティングの視点を取り入れることで、より価値を提供できるようになります。マーケティングの考え方をどのように適用すれば良いのか、具体例を交えて紹介します。
マーケティングとは「強みを価値に変えて市場を創る」こと
新しいメディアが続々と生まれている今、人々の「目」や「耳」はあらゆるメディアへと分散しています。しかし宮田は、これはメディアにとってピンチではなくチャンスだと捉えていると話し、「メディアの利用時間」に関するデータを紹介しました。
ビデオリサーチのマーケティングデータ「ACR/ex」によると、意識ベースの結果ではあるものの、1日におけるメディアの平均利用時間を2017年と2025年で比較すると、動画は218分から243分に、音声メディアも40分から72分へと増加していることがわかります。この結果は「メディアとの接点が増えた」とポジティブに捉えることもでき、「マーケティングによって利益や価値を伸ばせる余地がある」と話しました。
続いて宮田は「マーケティング」はさまざまな定義ができるとしたうえで、金井氏が考える「マーケティングとは何か」を質問しました。金井氏は個人的な定義として「強みを価値に変えて市場を創る」ことだと回答。ここでの「強み」は相対的なものではなく絶対的なものを指しています。「事業が存在していること」=「(その企業に)強みがある」と考えられる一方で、その強みを言語化できているケースは多くありません。同氏は「強みを提供価値にして、その提供価値を欲しがる人に届けることで、人が集まり、市場が創られていく」と説明しました。
金井氏の発言を受けて宮田は、ここからは「強みを価値に変えて市場を創る」ことをマーケティングの一つの定義として話を進めていきたいと伝えました。
テレビにおけるマーケティングを考える
続いて話題はテレビにフォーカスを当てたマーケティングへ。「強みを価値に変えて市場を創る」という定義に当てはめて考えると、そもそもテレビの強みとは何でしょうか。金井氏は、幅広いジャンルで品質の高いコンテンツを生成できる力と発信力が強みだと話し、事例を挙げました。
同氏は前職でマーケティングの仕事を行っていた時のデータを、イメージ図を用いて紹介。テレビCMを流したときに、折れ線グラフで示されているブランド検索クエリ(検索エンジンに入力したワード)の値が上がっていることがわかります。同氏は、ブランドプロモーションの仕事を始めた15年ほど前からこの波形は変わっていないと説明。テレビのリーチが下がったと言われる昨今でも波形の形が変わっていないことが、テレビは人の心を動かせることの証明になっているのではないかと分析しました。
次に宮田は、「価値に変えて市場を創る」部分に言及し、マーケティングはコンテンツ制作のアートの部分に介入するものではなく、クリエイティブを活かすものと捉えることがポイントだとコメント。強みを価値に変えて市場を創るために必要なこととして「現状分析」と「力学の理解」を挙げました。
その詳細について、まずは「現状分析」の例を用いて説明しました。数字はダミーですが、リアルタイムで400万人、タイムシフトで40万人、無料配信で50万人、有料配信で10万人の合計500万人が視聴したコンテンツがあったと仮定します。このとき、500万人という視聴人数をさらに大きくするために考えるべきは「視聴に至るまでの過程」です。
例えば、視聴一歩手前の接触者の数、さらにその手前のコンテンツに関心を持っている人の数など、視聴に至るまでのステップを仮定して、各ステップで数字を想定しながら見ていきます。すると、どこがボトルネックになっているかが分かってきます。「これにより、そもそも認知されていない、見る機会はあるけど見られていないといった課題を特定することにつながります。また一つのコンテンツを単独で調べることも大切ですが、他のコンテンツと比較してみることも重要です」と宮田は説明しました。
現状分析の次は「どのように数字を大きくするか」を具体的に考えます。そこで重要なのが、コンテンツ視聴における「キードライバー(目標達成に影響を与える変数)」です。市場の生態系や力学を調べ、データから見つけ出す必要があります。ここが難しいところである一方、マーケターの腕の見せ所でもあると宮田は話しました。
目標達成に寄与する「変数」を見つけるには?
キードライバーを見つけるための力学をどのように見抜けば良いのか。金井氏は前職でタウンワークを担当していたときに、集客を強化するためのコンテンツ「激レアバイト」を開発した例を紹介しました。
同氏は、この施策はECサイトなどでも見られるように、まず既存顧客にしてからリピートしてもらうという考え方で設計したものだと説明。貴重な経験が得られる「激レアバイト」という魅力的なコンテンツを作り、それをSNSで発信し、拡散することで実際に応募してくれる。また実際にアルバイトした体験が共有され、話題の拡散になる。それが結果的に求人サイトを訪れる人を増やすことにつながると話しました。
さらにコンテンツ開発の進め方についても説明。本事例では、そもそもどのようなコンテンツ(=アルバイト)が人気なのか、過去3年ほどのデータを分析して要件定義が行われました。その要件定義に従い、マーケットサイズがあってファン層がいるコンテンツを開発していましたが、マーケットサイズが大きくないコンテンツでも応募数が多いものがあることに気付いたと同氏は話します。
そこで金井氏は実際にアルバイトの現場に足を運び、働いている人へのインタビューなどを実施。マーケットサイズ以外にも理由がありそうだと考え、コンテンツの要素を分解してタグ付けをする「アノテーション」と呼ばれる分析を行いました。その結果、マーケットサイズに関係なく、「制作」「裏側」といったタグが付いたコンテンツの応募数が多いことがわかりました。アノテーションによって抽出した新たなキーワードをコンテンツの要件定義にエッセンスとして加えたところ、多くの応募を獲得。同氏は、こうした分析のサイクルをまわしていくことでコンテンツが良くなったことを実感できたとコメントしました。
宮田からは、データ分析以外で「変数」を見つけるために行ったことについて質問があり、金井氏は現地に足を運ぶことだと回答。「インタビューだけでは、理由がわかっても本音がなかなか出てこない。実際の行動や『何を見ているのか』を観察することで仮説ができあがり、アノテーションにおけるタグへの解釈度合いや解像度も深まった」と話しました。そのうえで、データは解釈の解像度が重要で、数字だけではない現場のファクトも含めてデータ化して分析することが大切だと示唆しました。
クリエイターとマーケターが良い関係を築くには?
最後のテーマは、クリエイター(制作)とマーケターの役割分担について。マーケターが見つけた「キードライバー」をコンテンツに落とし込む際、クリエイターへどのように伝えれば良いのか悩む人は多くいます。抽象的すぎても伝わらず、かといって細かすぎる指示はクリエイターの発想力を狭めることになりかねません。
金井氏は、15年ほどのキャリアを経て大切だと感じているのが、マーケターがクリエイターの邪魔をしないことだと見解を述べました。大前提として、ゼロから1を生み出すクリエイターはリスペクトすべき存在。そのためマーケターは1を生み出しやすい環境を作ることが求められます。一方で、作ったものが無駄にならないよう道を作って進むべき方向性を示すことが重要だといいます。
同氏は具体例としてタウンワークの事例を挙げ、会社としても大きな成果を得られたというシリーズもののCM制作について紹介しました。最初に行ったのが、オリエンでブランドの課題を解決するための要件を一つに絞って伝えること。次にその要件をもとにクリエイターにアイデア出しをしてもらい、タレントやGoogleのクエリ(検索エンジンに入力したワード)に関するあらゆるデータをクリエイターとともに分析しました。そしてCM完成後は視聴質のデータなどをクリエイターにも共有しながら結果を振り返った、と説明しました。
金井氏は結果の振り返りについて、良かったところではなく「うまくいかなかった学び」を抽出することを意識していたと話しました。うまくいったことは再現性があまりないため、うまくいかなかった部分に目を向けて「これはやめておこう」「この範囲なら何をしてもOK」という道の示し方をしていたと説明。こうしたサイクルを繰り返すうちに良いクリエイティブへとブラッシュアップされていったと成果を振り返りました。
続いて宮田から、「経営層がマーケティングを促進していくために重要なことは何か?」という質問がありました。金井氏は、失敗の許容だと回答。失敗したことも振り返れば学びになり、逆に失敗が許されない環境では現場がチャレンジできなくなってしまいます。経営層が失敗を許容するスタンスでいること、一緒に学びを抽出する手伝いをして「次ならうまくいくかもね」と後押しすることで、マーケターたちも非常にやりやすくなるのではと話しました。
最後に宮田が「ビデオリサーチはメディア×マーケティングの領域に向き合っていきたい。引き続きメディアを盛り上げていけたらと思っています」と今後の展望を述べ、セッションを締めくくりました。
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