視聴率実践講座 〜 その6 〜流入流出分析

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#テレビ #用語解説 #視聴率

※本記事は1997年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

第2章 流入流出分析

誰が"流入流出"という分析手法名をネーミングしたかは定かではありません。分数分布、R&F分析が、番組の健康診断を主眼とした、番組の制作者の方に利用を望む手法であったのに対し、"流入流出"は、主に自局の視聴率の"流れを見る"ことを目的とした、放送局の編成セクションの方のための手法なのです。

まず、時間帯毎に分析をすると平日は一般的にいかなる傾向となるかを、コメントで紹介させていただくことにします。関東地区でみると、朝5時〜7時頃までは、各局どの番組についてもテレビセット"OFF"(テレビが消えている状態)からの流入が多い結果となります。8時を過ぎると、8時15分前後と8時30分前後の時点で、各局間に大量の流入流出関係が発生します。この時間帯に強力な番組があることが示唆されるのです。そして8時30分を過ぎると、早朝とは逆に、テレビセット"OFF"への流出がどの番組についても多くなり、この傾向は11時台まで続きます。子供の通学、父親の出勤、母親はパートへ、そしてちょっとテレビを消して休憩、といった様子がうかがえるのです。昼の12時が近づくにつれて、再び各局ともに"OFF"からの流入が多くなります。そして13時を過ぎると、16時頃まで"OFF"への流出が各局ともに多くなります。主婦がテレビを見ながら昼食をとった後、外出したり昼寝をしたりと、様々に行動しているということでしょう。そして視聴率が上昇に転じる16時台から、再々度どの番組も"OFF"からの流入が大量となり、19時までこの傾向が続きます。以降22時台まで、各局間に活発な番組の視聴の流入流出関係が発生するのです。

編成マンにとっては、どの番組についても自局の視聴継続率が多く、かつ視聴率も高いのが理想でしょうが、番組にはアニメもあれば時代劇もあります。おじいちゃんと孫が一緒に両方の番組を仲良く見てくれるとよいのですが、なかなかそういうわけにはいきません。どこかで割り切りが必要となるのです。19時以降の時間帯で大量に発生する、各局間の番組の視聴の流入流出関係の要因のひとつということでしょう。22時を過ぎ、特に23時台に入ると、"OFF"への流入が多くなります。24時台に至ると、番組単位にとどまらず、短い単位の時間で活発な各局の流入流出関係が見られる時間帯になります。深夜で人間とテレビが1対1の関係となり、リモコンが活躍している姿がうかがえるデータが出てくるのです。

事例紹介

さて、平日の傾向を簡単にコメントさせていただきました。分析の手法の考え方は来月号にまわすこととして、今号では実際の事例を示させていただくことにします。ひとつは早朝について、高齢者"あり世帯"と"なし世帯"、もうひとつは夕方について、未就学児"あり世帯"と"なし世帯"を比較して分析した結果です。

<早朝のテレビ視聴 〜図1〜>

下図1は、「5:00〜5:30」「5:30〜6:00」「6:00〜6:30」「6:30〜7:00」それぞれの時間帯で視聴者がどこの局からどこの局(あるいはOFF)へと移り変わっていったのかを表す図です。この場合は、早朝のテレビを見始める時間の違いを考察することを主眼としているため、テレビを消しているOFF世帯を中心にもってきています。こうすることにより、OFF世帯と他の局との流入流出状況が一目で分かります。各局の判定視聴率がその時間帯にその局を見ていた世帯の総量で、その下の流入の数値が次の時間帯にOFFとなった世帯の量です。この場合、「5:00〜5:30」の間にテレビがOFFであった世帯の割合は92.1%(視聴判定1/3)で、そのうちの2.1が次の「5:30〜6:00」の時間にNHK総合を見た(流出した)ことになります。逆に、NHK総合を見ていた0.3%の世帯はOFFへと流入しています。OFF

であり続けたのは92.1%のうちの84.7で、自局継続率は92.0%と言います。これを「6:00〜6:30」「6:30〜7:00」へと見続けていくことにより、この時間帯の"視聴の流れ"が読みとれるのです。

では、実際に図1の流入流出表から早朝のテレビ視聴状況を探ってみましょう。高齢者(60才以上の人)のいる世帯といない世帯に分けて分析してみました。まず、中心にあるOFF世帯の判定視聴率をみると、高齢者あり世帯は時間帯ごとに「92.1→85.7→69.8→53.2」であるのに対し、高齢者なし世帯は「94.0→89.4→76.6→60.8」と、テレビを付けている割合が高齢者がいる世帯の方が多くなっています。つまり、高齢者がいる世帯は朝テレビを見始める時間が早いということが分かります。また、○印のついたところをみると、高齢者あり世帯は"朝はまずNHKを見る"という傾向が強いようです。

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<夕方のテレビ視聴 〜図2〜>

今度は、夕方のテレビ視聴状況を探ってみましょう。夕方4時〜8時の1時間ごとの流入流出分析をしてみます。未就学児(小学校に入る前の子供)のいる世帯といない世帯に分けて、中心にはNHK教育をもってきました。NHK教育の判定視聴率をみると、未就学児あり世帯は時間帯ごとに「8.7→23.3→20.2→1.8」であるのに対し、未就学児なし世帯は「0.5→1.6→3.8→0.4」と、圧倒的に未就学児はNHK教育を見ていることになります。ただ、それは夕方5時〜7時のみで、7時以降は見ていないようです。流入してくるのはOFFからが多くなっています(○印)。

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(本社 テレビ調査部 加納永一)

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