基調講演:今求められる生活者コミュニケーションのあり方とは【VR FORUM 2023 レポート】

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基調講演:今求められる生活者コミュニケーションのあり方とは【VR FORUM 2023 レポート】

SDGsに対する意識の高まり、存在感を増すインターネット広告、インターネット結線したコネクテッドTVの普及など、近年、生活者を取り巻く環境はかつてないほどの変化をしています。これらの影響で変化したマーケットに対し、広告業界は新たなアプローチが求められています。 各セッションに先駆けて行われた基調講演では、日本アドバタイザーズ協会理事長の川村和夫氏をお招きして、今回のFORUMのテーマである"Co-transformation"の重要性、すなわち生活者とのコミュニケーションを見直し、業界の健全なる発展を目指し、業界全体としてどう向き合っていくべきなのかを、提言を交えてお話しいただきました。

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[登壇者]
日本アドバタイザーズ協会理事長 川村 和夫氏

人口動態、気候変動、DXなどの外的要因が広告市場に影響

まず、川村氏は、現在のマーケティング環境の劇的な変化について解説しました。ひとつは、グローバルな人口爆発の一方で、日本の人口は減少し、さらに少子高齢化が進んでいること。「このことは、顧客ターゲット戦略とコミュニケーション手法の大きな変化も意味する」と示唆しました。

また、近年の気候変動により、温暖化対策や脱炭素を重視する意識が生活者に浸透しているとし、これらが「消費の意識、行動に少なからず影響を与えている」と推察しました。併せて、物価上昇に伴う消費者の購買意欲や購買力の低下も看過できないともいいます。そのような中、DXが進む社会において、消費者は情報過多の状態であり、結果、信頼できる人やサービスからの情報、プラットフォームのレコメンド機能によって選択するといった、他律的な行動が加速しているという考えを示しました。

プロセスから表現に至るまで、SDGsを意識する必要

このような環境の中、川村氏は消費者行動の変化についても解説。近年、企業活動にSDGsやESGを取り込むことが重視されており、「企業活動の一環である広告コミュニケーションも、社会課題に対する活動や貢献がひとつのテーマになる」との考えを示しました。

消費者側も、エシカル消費(※1)に対する関心がますます高まると予測。個人と社会のウェルビーイング(※2)に関する欲求も高まりをみせており、より良き社会の実現のための、倫理性と実効力が問われると示唆。「私たちはこういった消費者の意識を理解し、生活者とのコミュニケーションの中で伝えていくべき」とし、「広告コミュニケーション活動のすべてのプロセスにおいて、SDGsを意識していかなければならない」と説きました。

(※1)環境保全や社会貢献につながる消費のこと
(※2)身体だけでなく、精神的、社会的にも満たされている広い意味の幸福を指す概念

広告は、生活者に寄り添った顧客体験と、クオリティを担保する仕組みが求められる

次に、生活者とメディアの関わり方の変化についても取り上げました。川村氏によると、2023年の日本人の1日平均メディア接触時間は約7.5時間。その3割強にあたる約2.5時間を携帯電話やスマートフォンが占めるとのこと。また、10年前と比較すると、1日あたりのメディア全体の接触時間は約90分伸びていますが、内訳ではスマートフォンの伸びが約100分でした。特に若い世代でその傾向が顕著で、若者の急速なモバイルシフト化がデータで明確になりました。

それを裏付けるように、年間のインターネット広告費も急カーブで上昇。2022年の日本全体の広告費(7兆1,000億円)(※3)のうち3兆1,000億円がインターネット広告費。しかも、2019年に2兆円を超えてから、わずか3年で約1兆円増加していると解説。
「伝えたい情報を、届けたい相手に届けるためにインターネット広告の活用は拡大、加速していくというのは世の中の変化として当然」との見解を示しました。デジタルの特徴として、テクノロジーで精緻なターゲティングや豊富なデータによる効果測定が即時可能になった一方、双方向のコミュニケーションについても触れ、「広告は、ただブランドメッセージを伝え、理解してもらうだけではなく、生活者に寄り添った顧客体験を提供し、共感を得ていくことが求められる」との考えを示しました。
さらに共感を得るためには、どのように伝えるかというクオリティが今まで以上に重要になると川村氏は言います。「それは広告クリエイティブそのものだけでなく、媒体のどこにどのように掲出されるかもポイント」と強調。この点においては、従来のマス4媒体と比較してインターネットは歴史が浅く、さらに技術の進歩が早すぎて、自主規制や基準の設置が追いついていないと指摘。これに起因するアドフラウドや、広告主のブランドイメージを棄損するような媒体掲出が課題となっており、そういったリスクにどう対応するか「ブランドセーフティ」の対策が重要視されているとしました。
そうしたことを受け、日本アドバタイザーズ協会では、日本広告業協会と日本インタラクティブ広告協会とともにJICDAQ(※4)を立ち上げ、インターネット広告の品質管理に取り組んでいることを紹介。業界としての新たな動きに触れました。

(※3)出典:日本の広告費(電通)
(※4)一般社団法人 デジタル広告品質認証機構 2021年3月創設

コネクテッドTV利用拡大により、メディアを横断した統合指標への期待

インターネット広告が存在感を増す中、川村氏はテレビ広告の可能性についても語りました。川村氏は、もともとテレビ広告の持つ強みとして、ストーリー性を持って物事を伝えられるので、年齢・興味などの属性を超えて幅広く情報を届けられる強力なメディアであること、業界、各局で厳しい審査基準があるため、信頼の置けるコンテンツで消費者とコミュニケーションできることをあげ、テレビならではの価値をあらためて示しました。
その上で昨今は、インターネット回線に接続されたコネクテッドTVが急速に普及していることに言及。テレビ受像機のインターネット回線結線率は、全国で50%以上、関東圏では69.4%(※5)という数字をあげ「コネクテッドTVの普及により、ターゲティングによる広告の出し分けが可能となった。広告効果もインターネット広告を含めて統合的に評価できるようになると期待」と今後の動向に注目していると述べました。しかし、若年層を中心にテレビ受像機を動画視聴やオンラインゲームのためだけに利用する傾向も強いと示唆。それらと地上波放送がどのように棲み分けされていくのか、それによってコミュニケーションがどう変わるのかに注視する必要があると付け加えました。

それらを踏まえて、川村氏はこれからの広告コミュニケーションへの期待を述べました。ひとつは「データの整備、指標の確立」。アドバタイザー、広告会社、媒体の各自が持つデータを、プライバシーを担保しつつ突き合わせられる環境を整備し、統合的なコミュニケーション効果の判断指標を確立することを強く要請しました。
次に、「質と量の両立を図ること」とし、生活者の視点に立ち、インサイトを深堀りすることで、共感できる価値観やライフスタイルを提示し、ファンづくりに寄与することを挙げました。
それには今一度、ブランドの意義について問い直す必要があると指摘します。ブランディングのそもそもの目的は、「他社との区別」「信頼の保障」「夢や希望」を伝えることであり、顧客にとって魅力的な価値を長期的、継続的に一貫性をもって伝えることだといいます。さらに、「社会性」もポイントだと川村氏は強調。一例として当協会による字幕付きCMの普及推進していることを紹介。さらに広告コミュニケーション領域において、6月にはコンプライアンス遵守の徹底、10月には人権尊重についてのステートメントを出すなど「我々アドバタイザーが高い倫理観をもって主体的に課題に臨む必要がある」との考えを示しました。
「広告は、企業の個性と想いの発露」と考える川村氏。関係各社それぞれが企業としての社会的責任を果たしながら、広告のクオリティを高めていくことに期待するとエールを送りました。

(※5)2023年9月末時点、ビデオリサーチ調べ

業界がワンチームとなり、広告の未来を拓くとき

最後に、これらの実現には、アドバタイザー、広告会社、媒体社、制作会社、調査会社がパートナとしてそれぞれの強みを生かしたチームをつくり、共同、協業するまさに"Co-transformation""Co-working"が広告業界の健全な発展に必要不可欠という考えを強調し、「広告業界がワンチームとなり生活者に夢と希望を与え続ける広告業界をつくっていきましょう」と基調講演を結びました。

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