地域に根差した人気番組の成功事例 北海道と福岡の最新事情【VR FORUM 2022 レポート】

  • 公開日:
メディア
#VR FORUM #テレビ #ローカル局 #視聴実態
地域に根差した人気番組の成功事例 北海道と福岡の最新事情【VR FORUM 2022 レポート】

[登壇者](右から)
北海道テレビ放送株式会社 編成局総合制作部長 「錦鯉が行く!のりのり散歩」企画/チーフプロデューサー 戸島 龍太郎 氏
株式会社福岡放送 制作スポーツ局制作部 「地元検証バラエティ 福岡くん。」演出・プロデューサー 羽田野 雅裕 氏
株式会社ビデオリサーチ ネットワークユニット 北海道支社長 田巻 美保

生活者のコンテンツ嗜好が多様化する中、ローカルには地元生活者の心をつかむ素晴らしいコンテンツが数多く存在します。今回は、人々の生活が大きく変化した2020年4月以降にレギュラー放送を開始した人気番組の制作者(福岡放送(FBS)「地元検証バラエティ 福岡くん。」演出・プロデューサー 羽田野 雅裕氏、北海道テレビ(HTB)「錦鯉が行く!のりのり散歩」企画/チーフプロデューサー 戸島 龍太郎氏)をお招きし、番組の企画から制作・宣伝・放送におけるアイデアや苦労、手応えなど、具体的な事例をもとに、これからのローカル番組制作のヒントを伺いました。

■制作者が感じるコロナ禍を経た視聴者の嗜好

「ローカルには地元の生活者に長年愛されている番組がたくさんある」と田巻。そして、コロナ禍を一つのきっかけとして、生活者のコンテンツの嗜好がかなり多様化している中、レギュラー放送を開始し、「視聴者から好評を得られている番組を手がけている」と、羽田野氏、戸島氏登壇の経緯を語ります。

「最近の視聴者の嗜好はどのように映っているか」という田巻の問いかけに対し、戸島氏は「在宅時間が増えたことでネット動画を見る時間が増えた」としつつ、「ネットでテレビ、地上波でもテレビを見るなら、ある意味、コロナ禍前よりもテレビで映像を見る時間が長くなっているのではないか」とコメント。一方で、「再生スピードを速めて見る、視聴後に批評をSNSアップするなどの流れも増えてきた」とし、「番組作りにおいて、SNSの批評を見た人同士が語り合うといった新たな(テレビ視聴の)事象を意識する必要が出てきた」といいます。

「番組放送時、リアルタイムでどんなつぶやきがあるかは"怖いもの見たさ"で割と見てしまう」と羽田野氏も同意します。

■リラックスモードで地元の楽しい情報を、笑いを〜ローカル局としての思い〜

冒頭、田巻が「生活者のコンテンツの嗜好が多様化するきっかけの一つ」として挙げたコロナ禍。「コロナ禍以降で意識したことはあるか」(田巻)の問いに対し、ともに地元の視聴者に対する深い思いが込められていたといいます。
『地元検証バラエティ 福岡くん。』(福岡放送 毎週日曜12時35分〜放送)はコロナ禍の真っ只中である2020年の10月にレギュラー放送をスタート。この頃は明らかに鬱屈としたムードが福岡エリアにも蔓延。自局の情報番組でもコロナ情報をしっかり折り込んで伝える中、「日曜日のお昼の55分間だけはコロナのコの字も全部忘れてもらい、リラックスしたモードで地元の『ちょっと楽しい情報』に時間を割いてもらいたい」という思いで番組を作っていたと羽田野氏。

『錦鯉が行く!のりのり散歩』(北海道テレビ 毎週土曜13時26分〜放送)は2022年の4月にスタート。感染拡大によって「外出を控えよう」というムードが漂う中、視聴者が少しでも旅をした気分になれるよう、これまでも函館や富良野など北海道各地を旅する番組を作ってきたが、今回はバラエティ番組ということで「『ちょっとした笑い』を届けようと考えた」と戸島氏。「M-1チャンピオンになった錦鯉が自分たちの住む街を歩くことで『芸能人が地元に来ている』と興味を持ってもらい、そこで生まれる笑いをみなさんにお届けしたい」と続けます。

■「福岡県人以外には面白くない」"圧倒的ガラパゴス化"で人気を集める『地元検証バラエティ 福岡くん。』

福岡くん。』は、「福岡県外の人は一切面白くない」と言い切るほどに地元に徹底密着した深掘り調査で人気を集め、2022年上半期の平均個人視聴率は6.9%、平均占拠率は28.4%、コア占拠率は43.5%と好調な成績を収めています。

羽田野氏は番組制作の"狙い"として、「『ローカル地上波番組はオワコンである』との仮説への反証」を掲げ、「ローカル局の強みは地域にどっぷり根ざしていること」と強調。「コンテンツの圧倒的な"ガラパゴス化"によって"熱"を継続させ、テレビの媒体価値を膨らませながら番組を作っていきたい」と語ります。

「福岡は転勤などで移住してくる人の割合が多く、仮に2?3年でまた別の地域へ行ってしまったとしても、引き続き福岡という地域を好きでい続けてもらい、全国に福岡ファンがどんどん増えていけば地域の価値全体が上がるかもしれない。そのためにも地域を客観的に見るのではなく、どっぷり入り込んでコンテンツ化していきたい」(羽田野氏)

視聴者の意識が高まることでそのエリア全体の価値が高まることはとても良い事例」と、ローカル番組ならではの魅力を指摘する田巻に対し、「番組そのものを"生活必需品"にしたい」と羽田野氏。「福岡名物の辛子明太子やとんこつラーメンのように、『これ無しではちょっと寂しいな』とみなさんに思っていただける存在になりたい」といい、「『日曜日はこれを見るために家にいるようにしている』というように、生活リズムの一つとして番組がしっかり入っていけたら」と語ります。

また、情報番組『めんたいワイド』(福岡放送)を"生活必需品"のような番組の例として挙げ、「世の中も企画も少しずつ変わっていく中で、番組を福岡で放送する価値のようなものがずっと変わらずあり続けている」(羽田野氏)といい、「ローカルのバラエティとして、それを実現していきたい」と続けます。

■ブレイク前からの関係が生んだ"凱旋"。年齢ギャップで3世代視聴を狙う『錦鯉が行く!のりのり散歩』

『のりのり散歩』は、お笑いコンビ・錦鯉(長谷川雅紀、渡辺隆)が、田口彩夏アナウンサーの案内で札幌市内を中心に練り歩くバラエティ番組。

芸人でありながらHTBの情報番組のリポーターを務めていた長谷川さんと、同じ番組でMCを務めていた戸島氏は旧知の仲。ブレイク前、東京での下積み生活を追ったドキュメンタリーを制作するなど関係が続いていた中、錦鯉が2021年に『M-1グランプリ』で優勝。『のりのり散歩』はプロデューサーに転身した戸島氏が企画を手がけ、双方にとって悲願であった「錦鯉の冠番組」として立ち上がりました。戸島氏は「札幌のローカル芸人がようやくM-1チャンピオン凱旋だ!地元で暴れろ そして羽ばたけ」と、番組に込めた思いを示します。

「この番組の"狙い"は49歳以下、そして3世代に見ていただくこと」と戸島氏。「小さなお子さんとその親御さん、そして年配の方にも見てもらいたい」と語ります。

「51歳の長谷川さんと44歳の渡辺さん、いわゆる昭和のおじさん2人を子どもたちの中に入れたらどんな笑いが生まれるだろうか、ということを考えている。昭和世代と平成、令和世代がぶつかり合って笑いが生まれる。長谷川さんは相変わらずボケを奮発し、渡辺さんもそのボケを一生懸命回収する。その中でいろんな笑いが生まれて、とてもアットホームな番組が生まれていく」(戸島氏)

また、「小さなお子さんを取り上げることで、そのお子さんに見てもらえ、さらにその親の世代にも見てもらうことができる」と戸島氏。世代をまたいだ"掛け合わせ"で視聴の輪を広げていきたいとし、「とくに『テレビが欠かせない』というおじいちゃんおばあちゃんの世代はしっかりと離さないようにしたい」と力を込めます。

■街頭アンケートで地元の肌感覚を把握、同じスタッフで作り続ける・・・ 「内側の熱気」を高める制作術

ともに地元で熱狂的な人気を博し続ける2番組。番組が(インナー向けに)目指していることとしては、作り手の熱が一番そのコンテンツの価値を左右すると考えることから、「作り手が幸せになること」(羽田野氏)。テレビ番組が最近おとなしくなっていると感じ、「若手が表現をおとなしくして優等生的番組を作るのではなく、『何かあったら責任取るから、やってみろ』と背中を押すのがプロデューサー」(戸島氏)と、若手の育成などが挙がります。

「番組の狙いや目指していることのために、制作の現場ではどのような工夫や心がけを行っているか」と田巻が問いかけます。これに対し、「コンテンツと生活者の波長が合うことを意識している」と羽田野氏。エリア内で放送されている番組やソフトコンテンツの構造分析を通じて「どんなものが受け入れられているのか、もしくはそうじゃないのかをつぶさに見ている」と語ります。
「企画やネタの選定をする際、カメラを持たずに街へ出かけて『これってどう思います?』と街の人と雑談して、その反応で企画の筋を変えたり、反響を見積もったりすることがある。読みの当たりはずれは半々だが、番組作りにおいては、いま福岡の人が持つ肌感覚や距離感といった"体感値"をつねに把握、意識している」(羽田野氏)

また、番組で取り上げる話題や企画を選定する際には、「業界的なお約束を少し破るようにしている」と羽田野氏。「情報性のある地域ネタを取り上げることも多いが、いわゆる"街のホットな話題"には安易に飛びつかないようにしている」と、そのセオリーを語ります。

「最新の情報を扱うならば、デイリーで放送している情報番組の方が圧倒的に得意。『福岡くん。』では、みんながある程度知っているようなものの中で、そこに隠れている"みんなが知らないこと"を、アングルの付け方で料理していく。これにより、エリアの外の人にはなかなか作れない"内側の熱気"を高めている」(羽田野氏)

一方、戸島氏は「『錦鯉と何かを掛け合わせたところに生まれる笑いは何か』をつねに大事にしている」とコメント。「『51歳(の長谷川さん)と44歳(の渡辺さん)×小学生』というように、年齢差のギャップで笑いが飛び出す仕掛けを作っている」と語ります。

街ブラ番組という性質上、ロケ先の店舗をすでに別の番組が取り上げていた、というケースも少なくないそう。しかし、そこでも掛け合わせの発想が活きているといいます。

「他局さんがお店の商品を取り上げていたら、私たちの場合は店主の方のキャラクターや店構えにフォーカスする。たとえば『店構え×錦鯉』でどう面白くなるか、というように横の目線、アングルを変える面白さを追求している」(戸島氏)

さらに戸島氏は、重要視するポイントとして「錦鯉×スタッフの関係性」を挙げます。毎月1回、丸2日間を費やして行う収録には、プロデューサー、ディレクター、技術スタッフなど11人の制作チームが参加。そのメンバーは、番組スタート当初から一貫して変えていないといいます。

信頼関係が生まれて、阿吽の呼吸が生まれる。錦鯉のお2人もカメラマンのことはよく知っているし、カメラマンも2人の呼吸を熟知している。制作者と錦鯉の間に信頼関係がある中で、『今回は何をして楽しもうか』というワクワクしたムードが作り出され、それが番組の面白さにつながっていく」と戸島氏。

■タイアップ商品が大ヒット、全国から番組ロケ地の"聖地巡礼"も・・・ 番組が生んだ地元への経済効果

「番組において目指す方向や狙いは達成されそうか」と田巻。これに対する羽田野氏、戸島氏のコメントからは、「内側の熱気」によって番組の価値が飛躍的に高まり、地域経済にも大きな効果を及ぼしている現状が明らかとなりました。

現在『福岡くん。』では11社にのぼるレギュラースポンサーを抱え、番組で取り上げた店舗の来客数が2倍に増えたケースも。地元米菓メーカー「もち吉」とのタイアップで開発・販売した商品は、一時製造が追いつかなくなるほどの売れ行きを記録するなど大きなムーブメントを生み出しています。

「全然狙っていなかったのですが、遊びのつもりでやってみたら、番組にも企業さんにも視聴者の方にも価値のあるものをお届けできる仕組みが出来ていた。いろいろやってみると、いろいろあるのだな、と大きな発見になった」(羽田野氏)

ローカルの番組でありながら、番組の放送直後には地元福岡のみならず、日本のトレンドにも番組名のハッシュタグが上がるなど、SNSでも話題になるという『福岡くん。』。その背景として羽田野氏は「スマホを片手に番組を楽しむ習慣が定着している」と語り、「ネットを通じて、全国の"福岡ファン"の方たちが再び番組に"帰ってきてくれている"のではないか」と、その波及効果の大きさを語ります。

一方『のりのり散歩』も、定員200名の番組イベントに1300名を超す応募があるなど、熱狂的な人気を継続。系列局への番組販売や、CS放送を通して全国向けにも放送範囲が広がり、錦鯉の2人がロケで訪れたお店を札幌旅行の一環として"聖地巡礼"する人も出てきているといいます。

また、2023年3月には番組初となる福岡ロケを放送予定。「北海道・福岡間には航空会社5社が直行便を毎日8便運行しており、2時間半ほどで簡単に行くことができる」と戸島氏は語り、「番組をきっかけに福岡へ遊びに行く北海道民が増えるかもしれない」と、新たな "ローカル同士の交流"や"一つの小さな経済効果を生むこと"に期待を寄せました。

■「同じエリアで戦う局同士は"仲間"」テレビ全体を盛り上げるために共闘を

TVerなどのネット配信を通じて露出機会も増え、その魅力に注目が集まりつつあるローカル番組。地域に根差し、圧倒的な支持を得る人気番組を手がける2人に、田巻が「いま気になっているローカル番組」について尋ねます。

羽田野氏は「中京テレビ」を挙げ、その番組の一例として、強烈なキャラクターとサービス精神で人気を集める個人店にフォーカスし、カキ氷だけで1時間まるごと特集を組むなど"攻めた企画"が話題の『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』に言及します。「とくに面白いのは、この番組が中京ローカルの番組『PS純金(ゴールド)』のフォーマットを全国向けにそのまま持ち込んで作られているということ。ローカル時代の味をほとんど変えず、全国ネットになっても気負わずチャレンジしている姿はとてもかっこいい。作り手としてはすごく勇気をもらっている」(羽田野氏)

札幌テレビ『ハレバレティモンディ』を挙げるのは戸島氏。『のりのり散歩』と同じく、北海道ローカルで毎週土曜日の午後に放送されている番組で、「全国区のお笑いコンビであるティモンディを起用し、北海道各地をロケして道民に元気を与えているところがとても評価できるこの番組プロデューサーとは親しい間柄で、『いつかイベントなどでコラボして、北海道では土曜日の午後に面白いバラエティーをやっているということを打ち出していきたい』と話し合っている」と戸島氏。

ネット配信動画の台頭もあり、厳しい環境が予想されるテレビ業界、そしてローカル局。田巻は「これからどんなことに取り組んでいきたいか、これからのローカル番組やローカルテレビ局を考える」と、セッションの最後のテーマを挙げます。

「テレビを内側から変えたい。同じエリアで一緒に戦うローカル局同士は、ある意味仲間といえる存在。やはりこれからはテレビ全体で盛り上げていかないと、ネットコンテンツの人気に置いていかれてしまう。今後はローカル局同士で共闘し、イベントや共通のコンテンツを作っていきながら、全体のパイを増やしていくことが重要だと考える」(羽田野氏)

これに対し、「次に来るであろうタレントを誰よりも早く見つけ、番組を作りまくりたい」と戸島氏。「番組1本だけで満足していてはだめ」といい、「(発掘したタレントによる魅力的な番組を)増産することが局の財産になっていく」と強調します。

『水曜どうでしょう』で大泉洋さんやTEAM NACSをいち早く発掘し、番組・出演者ともに全国区に育て上げた実績を持つ北海道テレビ。「『もしかしてこれからブレイクするのではないか』と思う人、『この人は絶対応援したい』と思う人を見つけ、育てたい」と、戸島氏は新たな"ローカル発スター"の発掘に意欲をみせました。

地域に根差した人気番組の制作者2人による「内側の熱気」が凝縮された、およそ1時間のセッション。「お2人のお話から、これからの番組制作やローカル局の将来に向けたヒントを感じていただけたら」(田巻)と締めくくりました。

74202_01.JPG

他の記事も公開中!こちらから
VR FORUM レポート一覧

サービス一覧

関連記事