コロナ禍を経た生活者の変化、メディア・コンテンツへの態度と今後の展望 〜求めているのは、"有意義な時間化"〜【VR FORUM 2022 レポート】

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コロナ禍を経た生活者の変化、メディア・コンテンツへの態度と今後の展望 〜求めているのは、"有意義な時間化"〜【VR FORUM 2022 レポート】

[登壇者]
株式会社ビデオリサーチ 首都圏ユニットリサーチアナリシスグループマネージャー ひと研究所所長 對馬 友美子

コロナ禍により時間の使い方を大きく変えた生活者が、メディアに求めているものはなにか?その生活者に向き合うために、企業やメディア、そして当社に何ができるのか、何をしていかなければいけないかについて、当社の生活者のシンクタンクであるひと研究所の對馬が講演しました。

■コロナ禍により再配分された生活時間

3つのパート構成で見ていきます。

Part1「コロナ禍により人そして生活はどう変わったか」
Part2「生活者とテレビ、メディアの関係性はどう変わったか」
Part3「これからの生活者に向き合うために必要な3つの視点」

はじめに、「コロナ禍により人そして生活はどう変わったか」です。

コロナ禍を経て起こった変化の1つ目として、「行動制限による生活行動の変化で生活時間が再配分された」ことに注目しました。データで見てみますと、

在宅率(MCR/ex 東京50km圏 個人全体)
2019年(コロナ前)、2020年(コロナ禍)、2022年を時間帯別の年次推移で比較すると、2022年の日中の在宅率は2020年よりは下がっているが、コロナ前の水準までは戻っていない。

睡眠率(MCR/ex 東京50km圏 個人全体)
時間帯別に見ると、就寝時間については大きな変化はない一方、朝10時頃までの睡眠率が、2022年はコロナ前よりも高い。特に7時時点の睡眠率は、2019年(27.1%)と比較して、2022年(32.6%)で5ポイント上昇。「生活時間の開始がコロナ禍前と変わっており、これは習慣性が高いと言われている朝のメディア行動に影響してくるかもしれない」(對馬)。

在宅勤務頻度(ACR/ex 東京50km圏 男女12-69才有職者)
「朝遅くなった理由のひとつとして、在宅勤務の定着が挙げられる」と對馬。2022年4月下旬、有職者の4割が在宅勤務を実施していると回答。昨年と比べ、ほぼ毎日在宅という人の率は下がっているものの、約半数ほどは週に1回程度出社という状況と思われる。

外出時間
2022年の人出(行動率)は、2019年と比較して8時台で9割程度、15時台は8割程度、21時台では6割以下。朝や日中の人出は戻りつつある一方で、夜の人出は戻り切っていない(内閣官房ウェブサイトより。22年10月末時点)。外出時間量の変化(MCR/ex)と考え合わせると、外出の"動き"はやや戻ってきているが、外出"時間"はまだ抑えられていると推察される。

これらのことから、「コロナ禍の影響により在宅勤務が増えたり、外での飲食機会が減ったりし、外出していた時間を、自宅内での活動時間と睡眠時間に振り分けて、再配分された」と對馬。また、「少しずつ行動規制緩和による揺り戻しも見られる一方、増加した睡眠時間などは定着している傾向が見られる」と述べました(図1)。

(図1)
生活行動時間

■オン・オフに代わる「ウチ⇔ソト」意識の顕在化

コロナ禍を経て変わったことの2つ目として、外的接触が減ったことによる、オン・オフに代わる「ウチ⇔ソト」意識が顕在化したことが挙げられました。これまでは家の外やオフィシャルなお付き合いがオン、家の中やプライベートのコミュニティがオフという区分けがされていたが、コロナ禍で、プライベートだったはずの空間にオフィシャルなコミュニティが持ち込まれることになりました。仕事に限らず、従来はソトだった友人づきあい、飲み会といったものも家の中に持ち込まれ、境界線が溶けて混じり、「同じ一つの空間、同じ時間において公私さまざまに混ざり合って、間断なくコミュニティを切り替えられる状態になってきた」と對馬。「オン・オフという考え方がなくなり、代わりにウチかソトかで捉える機会が多くなってきた」といいます。また、「ウチ⇔ソトの視点」として、1つは物理的に「家(自宅内)」か「自宅外」かという意味でのウチとソトの考え方、もう1つは、心理的な線引きの内と外という考え方(コミュニティのウチ側にいるかソト側にいるかという考え方)、の2つあることを言及しました。

さらに、生活者は同じ空間時間に公私が混ざり合っているからこそ、「今どこにいる」「今ここにいる」「今どの内側にいる」「どの顔をしている」ということをより強く意識するようになってきているのではないか、という見方を示しました。

また、コロナ禍を経て起こった変化の3つ目として、「情報の正確性」と「配慮」が求められる社会になってきたことにも言及しました。未知なる脅威に急襲された当初は、玉石混淆の情報で感染者や医療従事者に対する風評被害なども生まれる混乱状態でした。「情報が整理され議論も収れんされていく経過で重要視されたのは、正確な情報をどれだけ早く得られるかと、偏見や先入観をいかに無くすかの配慮の必要性。これはコロナ禍で加速したが、それ以外の社会情勢下においても求められている、いわば"社会に必要な要請"」との解釈を對馬は伝えています。

■生活時間とともに再配分されるメディア利用時間

次に、生活者とテレビやメディアとの関係にフォーカスし、「生活者とテレビ、メディアの関係性はどう変わったか」を見ていきます。

テレビのリアルタイム視聴は低下傾向にあることを前置きしつつ、メディア接触の時間量を見ると、2020年に大きく増えたメディア利用時間は、徐々に減少傾向にあるものの、依然としてコロナ前より高い水準を保っています(図2)。「内訳をみると、リアルタイム視聴の時間量およびシェアはいずれも減少傾向にある一方、動画、SNS、ネット+メールのデジタルメディア接触は増加している」と對馬。

(図2)
メディア接触時間全体は増加も、テレビ接触は減り、デジタル接触が増

さらに、テレビのリアルタイム視聴は2018年(170分)に対し2022年には135分まで低下、一方で動画視聴、インターネット閲覧、SNSの利用は増加している(図3)ことを述べ、パート1で紹介した『生活時間の再配分』とともに『メディアの利用時間も再配分』されていることにも言及します。

(図3)
生活時間の再配分とともに、メディア利用時間も再配分されている

ただし、「リアルタイムのテレビ放送を見ていた時間が他に配分されたことが、イコール、テレビ番組、すなわちコンテンツが見られなくなっている、とは言い切れない」といいます。「大型スポーツイベントや災害など緊急性の高い情報、あるいはSNSなどで盛り上がっているドラマなどはリアルタイム視聴に回帰する傾向があり、『見る目的』があるものは見られている」(對馬)。

また、動画視聴時間の伸び(2018年の14分に対し、2022年では44分)とリンクして、動画配信サービスプラットフォームの利用率も軒並み伸長していることに触れ、さらには、コネクテッドテレビの普及により、動画が見られるデバイスでの動画視聴時間も伸びている(図4)ことにも言及しました。

(図4)
動画配信サービスは伸長、テレビ画面での動画視聴も増えている

これらの状況について、「生活者のコンテンツの選択肢が格段に増え、何で見るかのデバイスの選択肢も増えてきている。つまり、好きなときに好きな場所で、使いやすいデバイスを選べるなど、生活者主体で都合の良い時間やタイミングを選択できる環境が整ってきている」(對馬)と述べました。

■ほしいのは有意義な時間にしてくれるコンテンツ

生活者は限られた可処分時間で満足度を最大化したい傾向が見られ、それを『タイムパフォーマンス(タイパ)』という言葉で当社が最初に表現したのが2019年頃(※電通メディアイノベーション研究部との共同研究)。それが「コロナ禍で生活時間、メディア時間が再配分されたことで、より顕著になってきた」と對馬。「逆に、有意義な時間にしてくれる、タイムパフォーマンスが良いものだと思えるコンテンツであれば、それがテレビ、動画、リアルタイム、そしてオンデマンドに関わらず、視聴される可能性は高い」と続けます。

また、生活者が接触するメディアが多様化したことにより、あらゆるものが情報ソースとして存在すると言え、生活者はたくさんの情報ソースの中から、自分に必要な情報を選択するようになっています。

「情報市場が成熟してくるにつれ、複数メディアから情報を取って、何が正確なのか、どこが早いのか、また自分にとって何が正解なのか、を見極める目を持った生活者が増えている」(對馬)と述べました。また、以前より生活者の情報への詳しさが深まってきていることにも言及しました。

■これからの生活者に向き合うために必要な3つの視点

ここまで、
「生活時間とともにメディア時間も再配分」され、生活者は目的性を持って時間を使うようになったこと
・デジタルシフトしてあらゆるものが情報源化している中、自分で必要なものをピックアップする生活者が増えたこと
・情報の詳しさから、中途半端な情報ではなく、自分の心に深く刺さるものを求めること

という生活者の変化を見てきました。「生活者はテレビやメディアとの関わりにおいて、それに触れる時間を『有意義な時間化』したい意向が、コロナ禍を経てより一層高まった」(對馬)とまとめます。

そうした生活者に向き合い、彼らの可処分時間を有意義な時間とするために必要な3つの視点を整理しました。

第1は、「目的性で人を集め、また継続のための習慣性をつける」視点です。
時間が再配分される中で、タイパを求める生活者に選ばれるためには、「目的性で有意義な時間を得られることを期待させ、習慣性のメリットや達成感などを醸成し実感させる。具体的にはゲームアプリなどのログインボーナス。ゲームの楽しさという本来の目的だけでなく、ログイン習慣によりメリットをより得られ継続を促している」(對馬)と述べ、さらにこのような2段階の考え方を、「例えば動画プラットフォームやテレビの放送にも今後加えることができないか」と言及します。

第2は、「生活者の内側に入り込むズームイン」の視点です。
中途半端な情報はいらない、情報に詳しい生活者が増えている中、「生活者に何を有意義と思ってもらえるか、ウチに入って理解し、その文脈に乗ったメッセージや施策を伝える」、その上で「文脈に沿ったものであれば強くメッセージが届き、行為、共感、応援などが得られると考える」(對馬)と述べます。

第3は、「ズームアウト、全体を眺めて不快な思いや、ネガティブな感情を持たれることはないか、俯瞰」の視点です。
「一部の人にはいい意味でも、他の人にはそうではないという可能性、ソトの視点を見落としたままだとそれがリスクになることもある」(對馬)と指摘し、「ズームインだけではなく、ズームアウトして、全体を見渡し配慮するということも、企業評価に繋げるためには必要な視点と考える」と言います。

「多面的な顔を持ち、多様なメディアやコンテンツに触れている生活者にとって、これら3つはどれも必要な視点である」とした上で、「これらのポイントを押さえて、生活者に寄り添うためのマーケティングやコンテンツ作りのために、当社はこれからも皆さんのお手伝いをしていきたい」と締めくくりました。

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