【VR FORUM2020】Keynote.2 アメリカの最新メディア事情 〜 日本のメディアビジネス再編の糸口を探る 〜

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【VR FORUM2020】Keynote.2 アメリカの最新メディア事情 〜 日本のメディアビジネス再編の糸口を探る 〜

▲[ 登壇者 ]ビデオリサーチ USA President & CEO 谷口 悦一

Keynote2では、現場有識者のインタビューをまじえた「アメリカの最新メディア事情」を発表。「アメリカの概況」「デジタルの普及が及ぼしたメディアへの影響」「デジタル化によるメディアビジネスの変化」という3つの切り口から、日本にも将来的に起こる可能性があるメディアビジネス再編の糸口を探りました。

ネットの広告費はテレビの2倍に

アメリカの市場概況は、人口増の一方で将来的に白人シェアは減少し、人種の多様化が進む人口動態の変化が見込まれています、2019年の広告費は、およそ2400億ドル。メディア別の広告費はいったんリーマンショックで下がったものの、現在はほぼ回復しており、2019年のテレビ広告費は672億ドル、インターネットは1200億ドルと、テレビに比べおよそ倍となっています。

現在はコロナ禍の影響によって、どのメディアの広告費も下がっていますが、2021年以降、インターネットの広告費はふたたび伸びる半面、インターネット以外のメディアについては、引き続き下降傾向が予想されています。

また、18歳以上のメディア接触時間は、 2015年と比較すると、全体で2時間ほど伸びています。テレビは40分減の一方、インターネッ トはおよそ2倍に増加。特に若年層では、テレビの接触時間量が18歳以上の半分以下となっています。

デジタル化の影響から浮上する「スピードアップ」「多様化」「並列化」の3軸

デジタル化の浸透によって、アメリカのメディアはどのような影響を受けたのでしょうか。 現地有識者にインタビューを行ったところ、次のような回答を得ました。

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インターネットとモバイルによってメディア利用のフラグメンテーションが加速化され、雑誌社はただの雑誌社以上のものになることを余儀なくされた
(Odyssey社 シニアアドバイザー/CEO:Sarah Chubb Sauvayre氏)

消費者の行動やテクノロジーなど、様々な要因を受けてメディアの多様化が進んでいる。OTT(OverTheTop:動画配信)サービスが数多く提供されている一方、ウォルト・ディズニー、ソニー・ピクチャーズ、アリババなどが出資した新興の短編動画配信サービス『Quibi』が廃業を決定したというニュースもあった
(NBC Universal社 SVP Denise Colella氏)

デジタル社会の中で全メディアが並列となって競争している。従来のコンテンツが価値を失ったわけではないが、絶え間なく生まれるコンテンツと混ざり合っている。
人々は1日に何度もスマホを手に取る習慣がつき、特定のブランドへのロイヤリティ を高めている
(North Base Media社 マネージングパートナー Marcus Brauchli氏)

3名のインタビューからは、「メディアサイドのスピードアップ」「多様化の促進」「メディアの並列化」というキーワードが浮かび上がってきました。

メディアが情報の更新頻度を高めているという事実は、まさに「メディアのスピードアップ」と呼んでふさわしいでしょう。これまでは 自宅でしか見ることのできなかったメディア も、いまやスマホがあれば屋外でも接触できるようになり、消費者へコンタクトの幅が広が ました。これは「メディアの多様化」の一端を示すものです。さらにこれらが交互に合わさ り、これまで場所や時間帯、モーメント(行動軸)で棲み分けられてきたメディア体験が、スマホの画面を通じて「並列化」したのです。

キーワードは「細分化」「ニッチ」「ターゲティング」

メディアのデジタル化、スマホの登場は、アメリカのメディアビジネスにどのような変化 をもたらしているのでしょうか。ふたたび有識者の話を引用しましょう。

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現在、雑誌ビジネスは『ブランドビジネス』と捉えられている。彼らは自身を『雑誌を起 源とするブランド』と認識している。プライバシーへの懸念やサードパーティCookieの消滅などから、コンテンツを重視するマーケティングの需要が再び高まっているが、すでに自社の読者構成について豊富な読者データを持っている会社は、これらを強力なマーケティング材料として活用している
(Odyssey社 シニアアドバイザー/CEO Sarah Chubb Sauvayre氏)

最近の新聞は、ニッチに属することを認識し始めている。それはニューヨーク・タイムズとて例外ではない。ニューヨーク・タイムズの読者層は、頻繁に旅行に出かけ、立派な家に住み、リベラル思想で、アートを収集するなど芸術的関心が高く、読書好きで、お気に入りの著者がいるといった特性を持つ。これは非常に限られた層であり、十分にニッチといえるだろう。彼らは、ニューヨーク・タイムズが『自分たちのための新聞』だと知っているから、お金を払っているのだ
(North Base Media社 マネージングパートナー Marcus Brauchli氏)

アメリカのテレビ局は、データドリブンでターゲティング分析を行えるプラットフォー ム『OpenAP』を共同設立した。これにより、広告バイヤーはテレビ広告においても、 より精度の高いターゲティングをできるようになった。一方、NBC Universal では『Peacock』という無料動画配信サービスを提供し、コンテンツ消費の多様化、分散化の流れを食い止めようとしている。広告主や我々にとってこの仕組みは、ひとつのプラットフォームを通じて多くの人にリーチできることにつながり、非常に有益なものだ
(NBC Universal社 SVP Denise Colella氏)

これまでテレビは全国の視聴者に同じ広告しか配信できなかったが、現在はアドレッサブル(ターゲットごとに個別差し替えを行う)広告配信ができるようになった。さらにエキサイティングなのは、ライブやリニア(タイムテーブルに基づいた時系列)配信でもそれが可能になったこと。放送局はテレビ視聴者全体に効率よくリーチできるようになった
(ViacomCBS社 SVP Mike Dean氏)

スマホの普及が進んでメディアの並列化がおこり、いまやテレビ、新聞、雑誌はいつでもどこでも見られる存在となりましたが、その反面、メディアは今まで持っていた場所や時間 帯、モーメントに対する優位性を失いました。 そのため、メディアは再度、彼らが持つブランディングを推し進めています。Odyssey社・ Sarah氏の「雑誌ビジネスは『ブランドビジネス』と捉えられている」という言葉や、North Base Media 社・Marcus 氏の「新聞社がニッチを認識している」という言葉は、それを証明するものといっていいでしょう。

さらに NBC Universal・Denise 氏は、同社の『Peacock』という放送局アプリを通じた メディア展開の多様化や、放送局共同による データプラットフォーム『OpenAP』を通じて、 テレビ広告においてもターゲティング分析が進んでいる事例を、ViacomCBS・Mike 氏は、様ざまな属性の視聴者ごとに個別に広告の差し替えを行う「アドレッサブル広告」がテレビ 広告にも導入されていることを提示しました。

冒頭で概況としてお伝えした通り、現在のアメリカは、人口が増加傾向にあって、様ざまに人種、宗教における多様性を持ち、GDPも 上昇傾向と、日本とはかなり異なる環境にあることも事実です。しかし、デジタル化に際し、それぞれが持っていた特徴とブランド力を最大限に活用し、メディア細分化の流れを自社 の強みへと置き換えているという現状は、私たち日本のメディアにとっても、大きな示唆につながるのではないでしょうか。

「VR FORUM 2020」のレポート記事一覧

■基調講演:DXで繋がる消費者・メディア・コンテンツの未来 「オーディエンスジャーニー」の考え方を提唱
■Keynote.2 アメリカの最新メディア事情 〜 日本のメディアビジネス再編の糸口を探る 〜
■Session1 生活者データから予想される複雑化社会への視座と、メディアの価値の示し方 〜 複雑化社会におけるメディアの価値 〜
■Session2-a 複雑化社会のテレビビジネスについて考える。 〜 進化するテレビデータで、テレビの真価を表す 〜
■Session2-b ポストCookie時代における、データマーケティングの展望 〜 "人単位"のデータの重要性、業界全体で取り組む必要性 〜
■Session2-c 個人最適を"超える"、コンテンツメディアの新たな活用 〜 雑誌、ラジオの価値は"コミュニティ"そのもの 〜
■Session3メディアの新しい価値創造に向けたビデオリサーチの取り組み コンテンツの視聴を 個人起点であまねく測ること


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